岡山大学
熊本大学
◆発表のポイント
- 小児がんである横紋筋肉腫の悪性度が増強する分子機構として、CDKAL1によるタンパク質発現機構ががん幹細胞性因子SALL2の発現を促進することを発見した。
- CDKAL1によるSALL2の発現増強は、横紋筋肉腫のほか、悪性黒色腫や悪性脳腫瘍などの難治がんにおいても確認された。
- CDKAL1を介したタンパク質発現機構の阻害剤を複数発見した。
(概要説明)
横紋筋肉腫は、小児がんにおける軟部悪性腫瘍としては最も頻度が高いものの、本邦での年間発症数は100人程度と推定されており、いわゆる希少がんに分類されます。この希少性ゆえ、横紋筋肉腫の悪性度を決定づける分子メカニズムの研究や新たな治療法の開発が十分に行われていないのが現状です。
岡山大学学術研究院医歯薬学域の藤村篤史助教らのグループは、熊本大学大学院生命科学研究部の富澤一仁教授らとの共同研究により、横紋筋肉腫の悪性度を決める分子機構として、CDKAL1による遺伝子発現機構ががん幹細胞集団(2)を増幅させていることを突き止めました。CDKAL1はもともと2型糖尿病と関連する因子として富澤教授らによって機能解析されてきましたが、がんにおける役割は不明でした。今回、藤村助教らのグループは、CDKAL1が横紋筋肉腫のがん幹細胞性を司るSALL2というタンパク質の発現を増強する作用を見出し、この作用を阻害する化合物を複数発見しました。重要なことに、CDKAL1によるがんの悪性度増強作用は、悪性黒色腫、肝臓がん、前立腺がん、胃がん、悪性脳腫瘍でも確認されました。本研究成果は、希少がんである横紋筋肉腫やその他の難治がんにおける治療法開発につながることが強く期待されます。本研究成果は、2023年2月14日(火)17時に国際科学誌「Advanced Science」のオンラインサイトに掲載されました。
◆研究者からひとこと
横紋筋肉腫に限らず、希少がんは新たな抗がん剤開発の対象となりにくい疾患です。しかし、少ないながらも患者さん(患児さん)がおられることから、ニーズがあることは間違いありません。陽の当たりにくい研究領域ですが、こうした疾患にも、いつの日か革新的な抗がん剤を届けられるよう、チーム一丸となって研究に取り組んでいます。 | 藤村篤史 助教 |
■論文情報
論 文 名:CDKAL1 drives the maintenance of cancer stem-like cells by assembling the eIF4F translation initiation complex
掲 載 紙:Advanced Science
著 者:Huang R, Yamamoto T, Nakata E, Ozaki T, Kurozumi K, Wei FY, Tomizawa K, Fujimura A.
D O I:10.1002/advs.202206542
U R L: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/advs.202206542
■研究資金
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(課題番号JP20K07618、研究代表:藤村篤史)、日本医療研究開発機構次世代がん医療創生研究事業(課題番号JP18cm0106143、JP20cm0106179、研究代表:藤村篤史)、および内藤記念科学振興財団のご支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
小児がんの横紋筋肉腫の悪性度を決める分子メカニズムを解明〜希少がん・難治がんの治療法開発に光明〜
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域
助教 藤村篤史
(電話番号)086-235-7105
(FAX)086-235-7111
熊本大学大学院生命科学研究部
教授 富澤一仁
(電話番号)096-373-5050
(FAX)096-373-5052