国立大学法人 岡山大学

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大サイズな単層酸化グラフェン,その分散水は潤滑油より低摩擦

2013年10月21日

 岡山大学大学院自然科学研究科機械設計学研究室の木之下博准教授と同大異分野融合先端研究コアの仁科勇太助教らの研究グループは、仁科助教が開発した合成方法による酸化グラフェンを用いた分散水がスチール材料でも潤滑油より低摩擦であり、かつ摩耗も非常に少ないことを発見しました。この酸化グラフェンは従来のものよりサイズが大きく、ほぼ全てが一層になっており、かつ分散性が極めて高いことが特徴です。
 本研究成果は、2013年9月4日、化学系の学術雑誌『Carbon』に掲載されました。
 現在、環境問題や安全性、コストの点で水潤滑が注目されていますが、ステンレス材料では水の潤滑性がほとんどありません。切削や研削などの機械加工の分野では、潤滑油をエマルジョン化(乳化)して、水に分散させた水溶性潤滑剤を用いています。しかしながら、高い廃棄コストが問題となっていました。木之下准教授らは、水に1質量%の仁科助教が開発した合成方法による酸化グラフェンを分散させただけの分散水中で、ステンレス基板と超鋼(タングステンカーバイト)球の間で摩擦実験を行い、摩擦係数が0.05付近で潤滑油などよりもはるかに小さいことを発見しました。
 酸化グラフェンは、環境負荷が低く、かつ、廃棄も容易であるため、その分散水は既存の設備をそのまま利用可能となります。本研究成果は、水潤滑全般に応用でき、さらに機械加工の分野では現在の水溶性潤滑剤の代わりに用いることができると期待されます。
<業 績>
 酸化グラフェンは、2010年のノーベル物理学賞受賞で話題を集めたグラフェンと同じ炭素原子が結合して1枚のシート状に結合している物質です。分子レベルの薄さで柔軟であり、サイズは数十ミクロンを超えます。しかしながら、酸化されているため水と非常によく混ざるという性質を持ちます。また研究グループの仁科助教が開発した合成方法による酸化グラフェンは、従来のものよりサイズが大きく、ほぼ全てが一層になっており、かつ分散性が極めて高い特徴を持っています。
 今回、研究グループでは、その酸化グラフェンを濃度1質量%で精製水に混ぜて、その分散水中でタングステンカーバイト(WC)球とステンレス(SUS304)基板を摩擦させました。その結果、摩擦係数は0.05と非常に低い値を示し、WC球側の摩耗はほとんど見られませんでした。
 水潤滑の利点として、基本的に水は無尽蔵にあり、摩擦面を冷却する効果が高く、不燃性で安全性が高く、動粘度が大変低いことがあげられます。しかし、致命的な欠点として、産業的に重要な金属同士の摩擦面では著しく潤滑効果が低いことが挙げられます。そのため、水にグリセリンや水溶性潤滑剤を混合するなどの方法がとられていますが、このような混合水溶液は廃棄にかかるコストが高いという問題点がありました。
 ナノ物質は非常に高価ですが、研究グループの仁科助教が開発した合成方法では、酸化グラフェン1kgを1万円以下で合成可能と試算しており、1質量%の酸化グラフェンを含んだ1リットルの分散水のコストが100円以下に抑えられるという経済的メリットがあります。また酸化グラフェンは、炭素と酸素、水素原子からのみ構成されているため環境負荷が非常に低く、さらに遠心分離などで水からの再回収が容易で、廃棄コストも低い利点があります。
 このように従来の水溶性潤滑剤よりも高性能で、廃棄も含めたコストも低いと見込まれ、また既存の水潤滑システムをそのまま利用することが可能なため、特に大量の潤滑剤を消費する切削や研削などの機械加工の分野においての利用が見込まれます。


図1 酸化グラフェンの走査電子顕微鏡像
   サイズは数十ミクロンを超える。



図2 酸化グラフェンの原子間力顕微鏡像
(a)の直線部分の高さを(b)に示している。酸化グラフェンの厚さは1nm以下の分子レベルの厚さである。



図3 様々な液体による摺動回数による摩擦係数変化
酸化グラフェン分散水が最も低い値になっている。



図4 6万回摺動後のボールの走査電子顕微鏡像
(a)精製水で摺動した時。
(b)酸化グラフェン分散水で摺動した時。
(a)には摩耗痕が見られるが、(b)には見られない。



図5 6万回摺動後のステンレス基板の走査電子顕微鏡像
(a)精製水で摺動した時。
(b)酸化グラフェン分散水で摺動した時。
(a)には摩耗痕が見られるが、(b)では摩耗はほとんど見られず酸化グラフェンが吸着している摺動痕のみが見られる。


発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:H. Kinoshita、 Y. Nishina、 A.A.Alias、 M. Fujii、 Tribological properties of monolayer graphene oxide sheets as water-based lubricant additives、 Carbon、 2013、 in press;

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院自然科学研究科
    機械設計学研究室 准教授
(氏名)木之下 博
(電話番号)086-251-8034

年度