◆発表のポイント
- リチウム空気電池実用化へ向けた課題であるカーボン正極の劣化を克服する素材を発見しました。
- カーボン新素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)」を用い、6700 mAh/gに達する高容量と、既存のカーボン正極材料に対し6倍以上の充放電サイクル寿命を達成しました。
- GMS の高特性を産むトポロジー欠陥構造を理論と実験の両輪で解明しました。
リチウム空気電池は、現在のリチウムイオン電池の数倍以上のエネルギー密度の達成が見込まれる次世代蓄電池ですが、劣化が激しく充放電を繰り返し行うことができないことが大きな課題でした。今回の研究で、岡山大学、東北大学、信州大学、大阪大学、スロバキア科学アカデミー、University of Natural Resources and Life Sciences(オーストリア)、上海科技大学(中国)の学際的研究チームは、リチウム空気電池を長寿命化させるためのカーボン新素材の正極を見出しました。
リチウム空気電池の正極にはカーボン材料、負極にはリチウム金属が使用され、正極への過酸化リチウムの析出・分解により充放電が行われます。これまでにカーボン正極材料として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭等の多種多様な材料が検討されてきましたが、いずれの材料もすぐに劣化するため、繰り返し充放電ができないことが大きな課題でした。今回の研究では、東北大が世界に先駆けて開発したカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)注2」を正極に使うことで、これまでに報告されているカーボン正極材料の容量を大きく上回る6700 mAh/gを達成、なおかつ従来のカーボン正極に対し6倍以上の充放電サイクル寿命を達成しました。さらに、GMSのナノ構造を先端の分析手法、数学的解析、理論計算を用いて緻密に解析することで、高性能と高耐久性を両立するための材料設計指針を明らかにしました。
将来、長期的にはリチウム空気電池の実用化につながると予想されます。本成果は、2023年4月10日(現地時間)、科学誌 Advanced Science に掲載されます。
■論文情報
論 文 名:Edge-Site-Free and Topological-Defect-Rich Carbon Cathode for High-Performance Lithium-Oxygen Batteries
掲 載 紙:Advanced Science
著 者:Wei Yu, Takeharu Yoshii, Alex Aziz, Rui Tang, Zheng-Ze Pan, Kazutoshi Inoue, Motoko Kotani, Hideki Tanaka, Eva Scholtzová, Daniel Tunega, Yuta Nishina, Kiho Nishioka, Shuji Nakanishi, Yi Zhou, Osamu Terasaki, Hirotomo Nishihara
D O I:10.1002/advs.202300268
■研究資金
本研究はJST ALCA-SPRING (課題番号: JPMJAL1301)、 科学研究費補助金(課題番号: 22K14757, 21K14490, 21H01612, 21H01761)、V4-Japan 2021 Joint Call on Advanced Materials (V4-Japan/JRP/2021/96AtomDeC)、JST SICORP(課題番号: JPMJSC2112)、JST CREST(課題番号: JPMJCR18R3)、CℏEM 課題番号: EM02161943) & Shanghai Key-Laboratory of HREM (課題番号: 21DZ2260400)、 上海科技大学の支援を受け実施したものです。関係各位に深く感謝いたします。
<詳しい研究内容について>
リチウム空気電池を長寿命化するカーボン新素材 従来のカーボン正極の劣化をグラフェンメソスポンジで克服
<お問い合わせ>
岡山大学 異分野融合先端研究コア
研究教授 仁科 勇太
(電話番号)086-251-8718