国立大学法人 岡山大学

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オオムギ早生化の鍵遺伝子を発見

2013年10月23日

 岡山大学大学院環境生命科学研究科植物遺伝育種学分野の加藤鎌司教授、西田英隆助教らの研究グループは、日本のオオムギ品種“早木曽2号”が有する早生性(早期に出穂・開花すること)の原因遺伝子がHvPhyCであることを世界で初めて明らかにしました。
 本研究成果は2013年9月6日、米国の植物科学のトップジャーナル『Plant Physiology』に掲載されました。
 高品質オオムギの安定生産のためには、その地域で最適な時期に出穂・開花する品種の開発が必要であり、地球規模での環境変動下においてその重要性は増す一方です。本報告の成果は世界のオオムギ育種に貢献するものと期待されており、既に本研究グループでも、早生遺伝子HvPhyCを利用したオオムギ新品種の開発に着手しています。
<業 績>
 岡山大学大学院環境生命科学研究科、岡山大学資源植物科学研究所、および農業生物資源研究所の共同研究グループは、光受容体遺伝子の一つであるHvPhyCがオオムギの早晩性を決める重要な遺伝子であること、そして“早木曽2号”に代表される日本の早生オオムギ品種がHvPhyCの変異遺伝子によって早生化していることを、世界で初めて明らかにしました。
加藤教授らの研究グループは、日本の早生品種である“早木曽2号”が出穂期を1週間ほど早める早生遺伝子をもつことを明らかにし(下図)、その候補遺伝子と考えられた5H染色体長腕のVrn-H1、HvPhyC、HvCK2αのうちHvPhyCが最も有力な候補遺伝子であることを分離分析により突き止めました。HvPhyCの遺伝子配列を解読した結果、“早木曽2号”ではHvPhyCのエクソンにアミノ酸置換を伴うSNP(一塩基多型)があり、しかもこの変異が光刺激の受容というHvPhyCの機能にとって重要なGAFドメインにおいて起こっていました。さらに、“早木曽2号”がもつ変異型のHvPhyCがフロリゲン遺伝子であるHvFT1の発現を高めることを確認しました。これらの結果から、HvPhyCにおける塩基置換という突然変異によって早生遺伝子が生じ、早生オオムギ品種が誕生したと結論しました。また、本早生遺伝子をもつオオムギ品種が日本に限定されることから、HvPhyCの突然変異が日本において生じた、つまり日本発の早生遺伝子であると推察しました。


(左)晩生系統、(右)早木曽2号
変異型のHvPhyCを持つ“早木曽2号”が1週間ほど早く出穂する

<本研究の波及効果>  
 HvPhyCが日本のオオムギ品種の早晩性を決める鍵遺伝子であること、およびDNAマーカー解析によりHvPhyCの早生・晩生対立遺伝子を容易に識別できること、が明らかになったことにより、日本はもちろんのこと世界のオオムギ育種において出穂・開花期を1週間ほど早める、あるいは遅らせるのに有効な新たな育種技術が開発されました。また、HvPhyCが播性を決定するVrn-H1と密接に連鎖することから、早生性と秋播性(暖冬年において幼穂形成の早期化を抑制できる性質)をセットで選抜することが可能であります。本研究の成果は、地球環境変動下でも安定生産が可能なオオムギ品種の育成にも役立つものであり、加藤教授らの研究グループでは農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所と「ゲノム情報を利用した気候変動に対応できる大麦多収系統の開発」に関する共同研究を実施しています。
 また、基礎研究面では、オオムギだけでなくコムギも含めたムギ類における出穂期決定の分子メカニズムの解明を可能にする重要な知見と考えています。

<補 足>  
 長日植物とされるオオムギは一般に秋に播種し、春分を過ぎて日長が長くなる4月上旬頃に出穂・開花し、初夏に収穫されます。もちろん、栽培時期は地域によって異なり、各地域の栽培環境や作付け体系において適期に出穂・開花する品種が選抜・育種されてきました。このように環境適応・安定生産に不可欠な重要特性である出穂期の調節に関しては、他グループの研究により、日長反応経路に関わる2つの遺伝子Ppd-H1、Ppd-H2が明らかにされました。一方、日本においては、水稲の田植えや梅雨の前に収穫する必要があることから、早生品種が選抜・育成されてきましたが、これらの早生性はこれら2遺伝子では説明できず、新規遺伝子の解明が求められていました。

<脚注説明>  
☆フロリゲン:植物において花芽形成を誘導するシグナル物質であり、花成ホルモンともいわれる。シロイヌナズナやイネにおける研究により、FT(FLOWERING LOCUS T)遺伝子の産物がフロリゲンであると考えられています。
☆DNAマーカー解析:対立遺伝子間で塩基配列が異なることを利用して、各個体がもつ対立遺伝子を簡単に同定すること。
☆播性:ムギ類では一般に花芽(幼穂)形成のために一定期間の低温を必要としますが、必要とする低温期間は品種によって異なります。オオムギ品種はこの違いにより播性Ⅰ~Ⅵ(最も長い期間の低温を必要とするのが播性Ⅵ)に分類されており、播性Ⅰ~Ⅲが春播型(性)、Ⅳ~Ⅵが秋播型(性)です。低温を必ずしも必要としない春播型では、暖冬年において幼穂形成が早期化するために、偶発的(周期的)な低温により凍霜害が発生しやすくなります。

本研究は、農林水産省「アグリ・ゲノム研究の総合的な推進(課題番号GD3005)」および「新農業展開ゲノムプロジェクト(課題番号FBW1201)」の助成を受け実施しました。

添付資料はこちらをご覧ください

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:
Nishida H, Ishihara D, Ishii M, Kaneko T, Kawahigashi H, Akashi Y, Saisho D, Handa H, Takeda K, Kato K: Phytochrome C is a key factor controlling long-day flowering in barley (Hordeum vulgare L.). Plant Physiol. 163: 804-814 (2013). doi:10.1104/pp.113.222570

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ先>
岡山大学環境生命科学研究科 教授
(氏名) 加藤 鎌司
(電話番号) 086-251-8323
(FAX番号) 086-251-8388

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