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タバコ煙や排気ガスに含まれる化学物質「メチルビニルケトン」が生理機能に悪影響を与える機構を解明!~糖尿病などの疾患発症メカニズムの解明へ光~

2024年03月06日

◆発表のポイント

  • タバコ煙や排気ガスに含まれる環境化学物質のメチルビニルケトン(MVK)は、高濃度曝露では毒性を発揮することが知られていましたが、低濃度慢性曝露による生理機能への影響はほとんど解析されていませんでした
  • 今回、MVKは細胞内の恒常性維持に重要なタンパク質であるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)に結合し、インスリンや上皮成長因子(EGF)の作用を抑制することを明らかにしました。
  • 慢性曝露による糖尿病などの疾患発症メカニズムの解明や、その予防法や治療法の開発に繋がることが期待されます。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域の上原孝教授と岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士後期課程の森本睦大学院生は、理化学研究所環境資源科学研究センター生命分子解析ユニットの堂前直ユニットリーダー、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の安孫子ユミ准教授、九州大学大学院薬学研究院の熊谷嘉人教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の内田浩二教授らと共同で、環境化学物質の一つであり、タバコ煙や排気ガスに多く含まれるメチルビニルケトン(MVK)が、インスリンや上皮成長因子(EGF)のシグナル伝達(1)に重要なタンパク質であるホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)の制御サブユニットのシステイン残基に共有結合することで、受容体との結合を阻害することを明らかにしました。この作用により、糖取り込み作用などが著しく阻害されることを示しました。さらに、MVKと高い構造類似性を示すエチルビニルケトン(食品添加物)やアクロレイン(ポテトチップスなどに含まれる)なども同じような作用を有することを見出しました。
 本研究成果は、2024年1月24日に米国生化学・分子生物学会の学術誌「Journal of Biological Chemistry」に掲載されました。 本研究は、環境化学物質による糖尿病などの疾患発症機構解明に向けたものであり、その予防法や治療法の開発に貢献することが期待されます。

◆研究者からひとこと

本研究により、タバコ煙や食品添加物、加工食品、農薬などの私たちが日常的に曝される環境因子の中にも、生理応答を変化させる化学物質が含まれていることが明らかになりました。これらの化学物質は生活環境や食生活を介して複合的に生体内に取り込まれることから、私たちが思っている以上にその危険性は高いのかもしれません。本成果が環境因子による疾患発症機構の全容解明に少しでも繋がればと思います。
森本大学院生

■論文情報
論文名: Methyl vinyl ketone and its analogs covalently modify PI3K and alter physiological functions by inhibiting PI3K signaling
掲載誌: Journal of Biological Chemistry
著者: Atsushi Morimoto, Nobumasa Takasugi, Yuexuan Pan, Sho Kubota, Naoshi Dohmae, Yumi Abiko, Koji Uchida, Yoshito Kumagai, Takashi Uehara
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2024.105679
URL: https://www.jbc.org/article/S0021-9258(24)00055-3/fulltext

■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(挑戦的萌芽・22K19380、研究代表:上原 孝)及び喫煙科学研究財団の支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
タバコ煙や排気ガスに含まれる化学物質「メチルビニルケトン」が生理機能に悪影響を与える機構を解明!~糖尿病などの疾患発症メカニズムの解明へ光~


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)
教授 上原 孝
(電話番号)086-251-7939 (FAX番号)086-251-7939

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