国立大学法人 岡山大学

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メチル水銀が嗅覚系神経を傷害することを発見 長らく不明であった水俣病における嗅覚障害の病態解明に貢献

2024年03月12日

◆発表のポイント

  • においがわからなくなる「嗅覚障害」は、有害物質の曝露や神経変性疾患発症の重要な兆候の一つです。
  • 水俣病の原因物質であるメチル水銀が、嗅覚に関与する神経路を傷害することを初めて明らかにしました。
  • 本成果は、水俣病において嗅覚障害が生じることを裏付ける証拠となり、今後研究が進むことで水俣病の診断・検査に役立つことが期待されます。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)の上原孝教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の飯島悠太大学院生(博士後期課程3年)、国立水俣病総合研究センター基礎研究部の藤村成剛部長らの研究グループは、メチル水銀に曝露されたマウスにおいて、嗅覚に関与する脳領域や神経細胞が傷害されていることを初めて突き止めました。本研究成果は、2024年2月17日に欧州の科学雑誌 「Archives of Toxicology」に掲載されました。
 メチル水銀は神経系への毒性が強い環境汚染物質であり、四大公害病の水俣病および新潟水俣病を引き起こす主原因と考えられています。五感のなかで嗅覚は最も研究が遅れていると言われていますが、水俣病の病態研究においても嗅覚に関する知見はほとんどありません。嗅覚障害を合併する患者さんがいることは確かでしたが、なぜ嗅覚に異常が生じるのかは全くわかっていませんでした。本研究では、水俣病を模倣した動物モデルの脳や鼻の状態を詳細に観察し、嗅覚に関与する神経系が傷害を受けていることを新たに発見しました。水俣病の発生から実に60年以上経過したにもかかわらず、その病理に関して新事実が発見されることは驚くべきことであり、今後は水俣病の診断・検査の方面で本成果の応用が期待されます。

◆研究者からひとこと

 アルツハイマー病などの神経変性疾患では、嗅覚障害を合併することが知られており、近年は発病前の早期症状として診断や早期発見の分野で注目を集めています。また、新型コロナウイルスによる嗅覚障害が私たちの日常生活に不自由や不安をもたらしたことは記憶に新しいです。水俣病ではほとんど取り上げられてきませんでしたが、今後は嗅覚障害という新しい切り口で、メチル水銀の健康被害等に遭われた方々に役立つ研究が展開されることを願っています。
飯島大学院生

■論文情報
論文名: Characterization of pathological changes in the olfactory system of mice exposed to methylmercury
掲載誌: Archives of Toxicology
著者:  Yuta Iijima, Ryohei Miki, Nobumasa Takasugi, Masatake Fujimura, Takashi Uehara
DOI: 10.1007/s00204-024-03682-w
発表論文はこちらからご確認できます。
https://link.springer.com/article/10.1007/s00204-024-03682-w


■研究資金
 本研究は、環境省「重金属等の健康影響に関する総合的研究(水俣病に関する総合的研究)」およびJST 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業などの支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
メチル水銀が嗅覚系神経を傷害することを発見 長らく不明であった水俣病における嗅覚障害の病態解明に貢献


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)
教授 上原 孝
(電話番号)086-251-7939 (FAX番号)086-251-7939

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