国立大学法人 岡山大学

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悪性腫瘍の滑膜肉腫 原因蛋白の局在阻害で抑制に成功

2013年12月09日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科分子遺伝学分野の大内田守准教授、同研究科整形外科学分野の尾﨑敏文教授らの研究グループは、悪性軟部腫瘍のひとつである滑膜肉腫において、原因遺伝子蛋白質の局在を阻害することにより腫瘍の増殖を抑制することに世界で初めて成功しました。
 本研究成果は、2013年10月9日、米国のオンライン科学雑誌『PLoS One』に掲載されました。
 今回の研究で明らかになった局在阻害と増殖抑制効果について、詳細を明らかすることにより、腫瘍発症に関わるメカニズムの解明と新たな治療剤開発への応用が可能になると期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科分子遺伝学分野の大内田守准教授、同研究科整形外科学分野の尾﨑敏文教授、ならびに米田泰史大学院生らの共同研究グループは、まず悪性軟部腫瘍のひとつである滑膜肉腫における原因遺伝子蛋白質「SS18-SSX」を蛍光蛋白質で標識することにより、細胞内局在を可視化しました。次に細胞外からSSX遺伝子の一部を導入し、その局在を阻害することにより、腫瘍の増殖を抑制させることに世界で初めて成功しました(図1)。
 滑膜肉腫は、5~40歳の若年に発症しやすく、悪性軟部腫瘍の5~10%を占める腫瘍です。手足の大関節近傍、特に膝付近に生じ、肺転移やリンパ節転移をきたす予後不良の悪性腫瘍です。滑膜肉腫の9割以上において、X染色体と第18染色体の転座によるSS18-SSX融合遺伝子の形成が認められていますが、腫瘍発症の機構については未だ解明されてはいません。
 今回、原因遺伝子蛋白質SS18-SSXを蛍光蛋白質で標識することでSS18-SSX蛋白の細胞内での特異的な顆粒状の局在を可視化し、蛍光顕微鏡下でその局在阻害効果を検討しました。
 その結果、特異的な顆粒状の局在はSS18領域が導いているが、SSX遺伝子の一部の配列を外部から加えると局在を阻害できること、そして、腫瘍の増殖を抑制できることを突き止めました。


図1. SS18-SSX蛋白質にGFP蛍光蛋白質を融合させることで核内の特異的な局在を可視化した
A:SS18-SSX蛋白質の局在                       
B:SSX蛋白の一部の配列を外部から加えることにより局在阻害を起こしたもの

<見込まれる成果>
 滑膜肉腫は若年者の四肢に好発する高悪性度の軟部肉腫であり、しばしば遠隔転移をきたして死に至る予後不良な疾患です。今回の研究成果は、染色体転座で形成された融合型遺伝子の蛋白質により、滑膜肉腫が発症するメカニズムに解明の手がかりを与えてくれると同時に、新たな治療技術の開発につながる成果です。
 今回の局在阻害効果および増殖抑制効果を持つSSX遺伝子の配列とその作用機序を詳細に解明することにより、腫瘍発症に関わる蛋白質の複合体形成に重要な役割を持つ領域を同定し、その発症のメカニズムを解明すると同時に、新たな治療剤の開発への応用が可能になると期待されます。

<補 足>
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費(18591632、20591756)の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Yoneda Y, Ito S, Kunisada T, Morimoto Y, Kanzaki H, Yoshida A, Shimizu K, Ozaki T, Ouchida M.
Truncated SSX Protein Suppresses Synovial Sarcoma Cell Proliferation by Inhibiting the Localization of SS18-SSX Fusion Protein. PLoS One, 2013, 8(10): e77564. doi: 10.1371/journal.pone.0077564.

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
   分子遺伝学分野 准教授
(氏名)大内田 守
(電話番号)086-235-7379
(FAX番号)086-235-7383
(URL)http://molgenet.med.okayama-u.ac.jp/Molecular_Genetics/Welcome.html

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