国立大学法人静岡大学
国立大学法人岡山大学
理化学研究所
◆発表のポイント
- 低エネルギー クロロフィル dを持つAcaryochlorisから光化学系I単量体と三量体の精製に成功しました。
- 光化学系I単量体と三量体で低エネルギークロロフィル dの組成や配向が異なることを示唆しました。
- 低エネルギークロロフィル dの多様性はAcaryochloris種の進化を 解明する うえで重要なのかもしれません。
静岡大学農学部の長尾遼准教授の研究グループは、岡山 大学の 沈建仁 教授 、理化学研究所 環境資源科学研究センター の堂前直ユニットリーダー らと共に、 低エネルギー クロロフィル dを有するシアノバクテリアAcaryochloris sp. NBRC 102871(以下、 NBRC102871)から光化学系I(PSI)単量体と三量体のそれぞれを精製し、分子特性を明らかにしました。 紫外可視分光スペクトルおよび蛍光スペクトルにより、 PSI単 量体 と 三 量体のそれぞれで 低エネルギークロロフィル dが 観測されました。しかし、それらのスペクトル特性 は 大きく異なりました。 PSIの単量体間相互作用の影響により、 クロロフィル d周辺 で 構造変化 が生じた結果 、 PSI三量体と単量体 において、異なる低エネルギークロロフィルdの 形成 が示唆されました。 これは、多様な 低エネルギークロロフィルdを有する Acaryochloris種の特徴です。
クロロフィルdは Acaryochloris種のみが有しています。その他の シアノバクテリア、藻類、陸上植物といった酸素発生型光合成生物は、クロロフィル dを持ちません。 我々は 2023年にAcaryochloris marina MBIC 11017(以下、 MBIC11017 の PSIを分析しましたが、 NBRC102871ほどの低エネルギークロロフィル dは観測されませんでした。このように、特殊な生物群である
Acaryochloris種の PSIに結合する低エネルギークロロフィル dは多様であることを見出しました。
本研究で得られた 研究成果は、 Acaryochloris種の進化 を理解するうえで重要な知見となります。
なお、本研究成果は、2024年 6月 27日 に、 シュプリンガー・ネイチャー の発行する 国際雑誌「 Photosynthesis Research」に掲載されます。
◆研究者コメント
静岡大学 農 学部 准教授・長尾遼(ながおりょう) 私の研究室では光合成生物の見た目の色の違いについて分子レベルで研究しています。クロロフィル dを有する Acaryochloris種 は本当に不思議な生物群です。なぜ他の光合成生物が利用しているクロロフィル aを利用しなかったのか ?そんな素朴な疑問を解明するために本研究を行いました。今回の成果でその一端を明らかに出来たと思います。 |
■論文情報
掲載誌名: Photosynthesis Research
論文タイトル: Presence of low-energy chlorophylls d in photosystem I trimer and monomer cores isolated from Acaryochloris sp. NBRC 102871
著者: Ryo Nagao, Haruki Yamamoto, Haruya Ogawa, Hibiki Ito, Yuma Yamamoto, Takehiro Suzuki, Koji Kato, Yoshiki Nakajima, Naoshi Dohmae, Jian-Ren Shen
DOI: https://doi.org/10.1007/s11120-024-01108-3
<詳しい研究内容について>
低エネルギークロロフィルdを有するAcaryochlorisの光化学系I複合体の特性解析
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