◆発表のポイント
- 明らかになりつつある新型コロナ後遺症のさまざまな潜在的寄与因子には、宿主内残留ウイルスによる持続感染が直接的あるいは間接的に関与しています。
- ワクチン並びに抗ウイルス薬による新型コロナ後遺症の予防効果並びに治療効果を、細胞免疫学的知見に基づく宿主内免疫応答の数理モデルを用いて検討しました。
- 後遺症患者の宿主内残留ウイルスは、ワクチン接種により一時的な増加を示し、症状悪化のリスクが示されました。
- 一方、抗ウイルス薬との同時併用は、そのリスクを最小限に抑え、ワクチン接種による抗体産生が、1年以上継続する大幅な残留ウイルスの抑制を導きました。
- ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用は、後遺症回復の効果が望める治療法として期待されます。
岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授らは、細胞免疫学的知見に基づく宿主内免疫応答の数理モデルを用いて、ワクチン並びに抗ウイルス薬による新型コロナ後遺症の予防効果を明らかにするとともに、ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用が、後遺症の回復に有効である可能性を見出しました。また、ワクチン追加接種の間隔が2年以上離れると、ワクチンによって誘導される免疫応答に必要な宿主内抗体量が不十分になり、追加接種による十分な抗体産生が見込めない可能性が、シミュレーション実験により示されました。本研究成果は8月9日、「Frontiers in Immunology」にオンライン掲載されました。
本研究成果は、ワクチン接種計画を立てるうえで参考となる知見であり、また、今回提案した既存のワクチンおよび抗ウイルス薬の同時併用は、コロナ後遺症の比較的安価な治療法として利用することが可能です。担当医による適切な指導の下、新型コロナ感染症の予後改善に貢献する可能性が期待されます。
◆研究者からひとこと
2022年に提案した数理モデルをベースに、ワクチン接種を考慮出来るようにアップデートして、宿主内残留ウイルスによる持続感染を伴う後遺症患者に対するワクチン接種の効果を調べました。ワクチン接種直後にウイルス量が一時的に急上昇する様子を観測したときは、少し怖さを感じると同時に、ワクチン接種が後遺症の「回復」にも「悪化」にもつながるという臨床報告の意味を理解しました。本研究で提案した「ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用」は、症状悪化のリスクを最小限に抑えたいという考えに基づくものです。担当医の適切な指導の下、後遺症に悩まされている患者の方々の少しでも助けになれば幸いです。 | 墨准教授 |
■論文情報
論文名: Vaccine and antiviral drug promise for preventing post-acute sequelae of COVID-19, and their combination for its treatment
掲載誌: Frontiers in Immunology
著者: Tomonari Sumi, Kouji Harada
DOI: 10.3389/fimmu.2024.1329162
URL:https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2024.1329162/full
■研究資金
本研究は、公益財団法人岡山工学振興会の学術研究助成および独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(JP20K05431, JP22H01888, JP22K12245)の助成を受け実施しました。
<詳しい研究内容について>
持続感染を伴う新型コロナ後遺症の予防法並びに治療法の検討〜ワクチンと抗ウイルス薬の同時併用には症状回復の効果が期待される〜
<お問い合わせ>
岡山大学異分野基礎科学研究所
准教授 墨 智成(すみ ともなり)
(電話番号) 086-251-7837