◆発表のポイント
- クジャクやニワトリなどのキジ科の鳥では、オスが派手な羽を持ち、メスは地味な羽を持ちます。
- ニワトリを用いた実験により、エストロゲンがオス型の羽をメス型の羽に変える仕組みの一端が明らかになりました。
- この成果は、ホルモンによる性差形成や、キジ科の鳥の羽色多様性の理解に貢献することが期待されます。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(理)の竹内 栄教授、相澤清香准教授らの研究グループは、ニワトリを用いた実験を通じて、キジ科鳥類に広く見られるエストロゲン(女性ホルモン)による羽の性差形成の仕組みの一端を解明しました。この研究成果は、8月23日に国際比較内分泌学会連合の機関誌『General and Comparative Endocrinology』オンライン版に掲載されました。また、10月1日発刊の印刷版第357巻の表紙に論文イメージが採用されました。
クジャクやニワトリなど、キジ科の鳥では、オスが派手な飾り羽を持ち、メスが地味な保護色の羽を持つことが広く知られています。この顕著な性差はエストロゲンに依存しており、エストロゲンの作用によってオス型羽がメス型羽に変わることで性差が生じます。しかし、エストロゲンが具体的にどのように作用するのか、そのメカニズムは長らく謎とされてきました。
本研究では、ホルモン投与による羽の形態や色の変化を観察し、遺伝子発現との関連性を詳しく解析することで、エストロゲンが羽包内の2つのホルモン系に影響を与えることにより、メス型羽の形成を誘導することが明らかになりました。
この成果は、ホルモンによる性差形成の理解を深めるだけでなく、江戸時代の絵師・伊藤若冲が鮮やかに描いたニワトリの羽の多様性についての生物学的理解にもつながることが期待されます。
◆研究者からひとこと
最近では、鳥の性差を知らない学生さんが増えているようです。オスのクジャクの美しい羽が男性ホルモンで作られていると、誤解している人も少なくありません。科学技術が進歩する一方で、生き物に対する基本的な理解や関心が薄れつつあるのではないかと心配です。生物の理解は、私たち自身の理解にもつながります。そんなことを考えながら、時には若冲が描いた繊細で豊かな色彩の鶏をじっくりと鑑賞する時間を持ちたいなと思う今日この頃です。 | 竹内教授 |
■論文情報
論 文 名:Revisiting the hormonal control of sexual dimorphism in chicken feathers
掲 載 紙:General and Comparative Endocrinology Volume 357, 2024, 114601, ISSN 0016-6480
著 者:Li You, Kaori Nishio, Kinue Kowata, Minaru Horikawa, Hibiki Fukuchi, Maho Ogoshi, Sayaka Aizawa, Sakae Takeuchi
D O I:https://doi.org/10.1016/j.ygcen.2024.114601
U R L:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0016648024001631
■研究資金
本研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施しました(基盤研究C:17K07471, 20K06721, 23K05851)
<詳しい研究内容について>
若冲が極彩色に描いた鶏の羽の性差:その謎を科学が解明~エストロゲンがメスの羽を形作る仕組み~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(理)
教授 竹内 栄
(電話番号)086-251-7868
(FAX) 086-251-7876