◆発表のポイント
- アンチトロンビンの細胞形質膜受容体を、革新的方法を用いて新規に同定しました。
- 同定されたCLEC1A受容体刺激により、アンチトロンビンはヒト好中球を強く制御しました。
- アンチトロンビン-CLEC1A系は、アンチトロンビンの抗炎症作用に関与していることを明らかにしました。
本研究結果により、血漿タンパク学に新しい展開が生まれることが期待されます。
岡山大学学術研究院医歯薬学域 創薬研究推進室・西堀正洋教授(特任)/特命教授、同学域 細胞生物学・阪口政清教授、同学域 創薬研究推進室・髙橋陽平客員研究員の研究グループは、抗炎症作用を有する血漿タンパクであるアンチトロンビンの特異的受容体として、C-type lectin family 1A (CLEC1A) 3)を同定しました。
アンチトロンビンは、トロンビン活性の直接抑制による抗凝固作用がよく知られていますが、ヒト好中球4)細胞上のCLEC1A を刺激することで好中球の形態を表面円滑な正球形に変化させ、機能的には好中球の細胞死を抑制するとともに、活性酸素分子種 (ROS) の産生を抑制することを明らかにしました。このようなアンチトロンビンの作用は、トロンビン活性の抑制による抗凝固作用とは無関係であり、すでに臨床で使用されているアンチトロンビン製剤の抗炎症作用に関与している可能性があります。今回用いられた受容体の同定法は、阪口教授らの研究グループが独自に開発した革新性の極めて高いスクリーニング法です(Gao et al., iScience, 2020; Takahashi et al., J Immunol, 2021)。
本研究成果は、10月8日、国際専門雑誌Blood, Vessels, Thrombosis & Hemostasis (Blood, VTH) にOnline掲載されました。同研究グループによる血漿タンパクHistidine-rich glycoprotein(HRG)に関する先行研究と合わせて、本研究は血漿タンパク群の全く新しい機能的役割と作用機序を強く示唆するものであり、血漿タンパク学に新しい展開をもたらすと期待されます。
◆研究者からひとこと
3年前に定年退職した後、「特任」「特命」の職名をいただき、若い優秀な研究者と議論しながら、鋭意研究を続けております。 | 西堀教授(特任)/特命教授 |
■論文情報
論 文 名:Antithrombin regulates neutrophil activities through the stimulation of C-type lectin family 1A
掲 載 紙:Blood, Vessels, Thrombosis & Hemostasis (Blood, VTH)
著 者:Takahashi Y, Htwe SS, Wang D, Wake H, Yata M, Tomonobu N, Kinoshita R, Sakaguchi M, Nishibori M.
D O I:10.1016/j.bvth.2024.100032
U R L:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2950327224000329?via=ihub
■研究資金
本研究は、以下の支援を受けて実施しました。
・AMED 創薬基盤推進研究事業 JP24ak0101204 研究開発代表者 西堀正洋
・一般社団法人 日本血液製剤機構共同研究費
<詳しい研究内容について>
血漿タンパクアンチトロンビンのターゲット受容体を発見~血漿タンパク学に新しい展開~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域
教授(特任)/特命教授 西堀 正洋
(電話番号)086-235-7393