国立大学法人 岡山大学

LANGUAGE
ENGLISHCHINESE
MENU

金属酸化物結晶中のネットワーク構造の乱れが電池の負極特性を低下させることを解明~リチウムイオン電池の放電容量と安全性の向上に寄与~

2024年12月10日

東京理科大学
名古屋工業大学
岡山大学
島根大学


◆研究の要旨とポイント

  • Wadsley–Roth相のTiNb2O7は、優れた放電容量と安全性を備えたリチウムイオン電池の負極材料として注目されています。
  • 本研究では、中性子・X線全散乱測定とパーシステントホモロジーに基づくトポロジー解析により、TiNb2O7のネットワーク構造と電気化学特性の相関を明らかにしました。
  • 本研究成果のさらなる発展により、炭素系材料に代わる新たなリチウムイオン電池負極材料として活用され、リチウムイオン電池の大型化の実現に貢献することが期待されます。

【研究の概要】
 東京理科大学 創域理工学部 先端化学科の北村 尚斗准教授、石橋 千晶助教、井手本 康教授、東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端化学専攻の松原 暉大学院生(研究当時、2022年度 修士課程修了)、名古屋工業大学 物理工学類の木村 耕治助教、林 好一教授、岡山大学 AI・数理データサイエンスセンターの大林 一平教授、島根大学 材料エネルギー学部 材料エネルギー学科の中島 健助教らの共同研究グループは、中性子・X線全散乱測定とパーシステントホモロジーに基づくトポロジー解析によりWadsley–Roth相のTiNb2O7結晶の原子配列を解析し、負極特性に影響を及ぼす因子を明らかにしました。

 近年、車両用リチウムイオン電池の負極材料として、Wadsley–Roth相を形成するTiNb2O7(TNO)に注目が集まっています。TNO結晶中では、リチウムイオンが比較的自由に移動できる空隙があり、高速でのイオン輸送が可能になるため、エネルギー貯蔵材料として非常に有用であると考えられています。一方で、原子配列と負極特性に関する詳細は未解明のままでした。そこで本研究グループは、TNOの構造と負極特性の相関について明らかにすべく、中性子・X線全散乱測定とパーシステントホモロジーに基づくトポロジー解析を行いました。

 今回、前処理の異なる3種類の試料TNO(未処理)、TNO(ボールミル処理)、TNO(熱処理)を準備しました。全散乱測定や走査型電子顕微鏡(SEM)などの分析から、ボールミル処理により、粒子サイズが小さくなると同時にネットワーク構造(中距離構造)が乱れることが確認され、熱処理により、その乱れが回復することがわかりました。負極特性に関しては、粒子サイズが小さく、秩序構造を形成しているTNO(熱処理)が初期放電容量、容量維持率ともに最も優れていることが判明しました。パーシステントホモロジーに基づくトポロジー解析の結果から、結晶中の原子が形成する穴(リング)の中でも、4組のイオン対から構成された歪みのないリングがリチウムイオンの移動に寄与していることが明らかとなりました。
 本研究は、負極特性と構造の相関を明らかにすると同時に、試料の前処理を最適化することで、結晶のトポロジーを制御できる可能性を示唆しています。中性子・X線全散乱測定とトポロジー解析を組み合わせて中距離構造を評価する手法が、電極特性の向上に有用であることが実証されました。

 本研究成果は、2024年12月10日に国際学術誌「NPG Asia Materials」にオンライン掲載されました。

■論文情報
雑誌名: NPG Asia Materials
論文タイトル: Relationship between Network Topology and Negative Electrode Properties in Wadsley–Roth Phase TiNb2O7
著者: Naoto Kitamura, Hikari Matsubara, Koji Kimura, Ippei Obayashi, Yohei Onodera, Ken Nakashima, Hidetoshi Morita, Motoki Shiga, Yasuhiro Harada, Chiaki Ishibashi, Yasushi Idemoto, Koichi Hayashi
DOI: 10.1038/s41427-024-00581-5

【研究助成】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費の学術変革領域研究(A) 超秩序構造科学が創造する物性科学(20H05880, 20H05881, 20H05884)、国際共同研究加速基金(19KK0068)による助成を受けて、実施されたものです。

<詳しい研究内容について>
金属酸化物結晶中のネットワーク構造の乱れが電池の負極特性を低下させることを解明~リチウムイオン電池の放電容量と安全性の向上に寄与~

【発表者・研究者等情報】
東京理科大学 創域理工学部 先端化学科
 北村 尚斗 准教授
 石橋 千晶 助教
 井手本 康 教授

東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端化学専攻
松原 暉 大学院生(研究当時、2022年度 修士課程修了)

名古屋工業大学 物理工学類
 木村 耕治 助教
 林 好一 教授

岡山大学 AI・数理データサイエンスセンター
 大林 一平 教授

島根大学 材料エネルギー学部 材料エネルギー学科
中島 健 助教


【研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 創域理工学部 先端化学科 北村 尚斗 准教授
TEL: 04-7122-9495
Fax: 04-7123-9890

【報道・広報に関する問い合わせ先】
東京理科大学 経営企画部 広報課
TEL:03-5228-8107 FAX:03-3260-5823 

名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647

岡山大学 総務・企画部 広報課
TEL:086-251-7292 FAX:086-251-7294

島根大学 企画部 企画広報課 広報グループ
TEL:0852-32-6603 FAX:0852-32-6630

年度