◆発表のポイント
- 食道がん手術前の抗がん剤治療中は栄養状態が悪化し、そのことが生命予後に影響を及ぼします。そのため、栄養状態の悪化に関与する因子を特定し、適切な対策を講じる必要があります。
- 歯科的な因子を調べたところ、予想に反し、「かみ合っている奥歯の数が少ない患者」よりも、「かみ合っている奥歯の数が多い患者」において栄養状態が大きく悪化していました。
- 詳しく調べると、「奥歯のかみ合わせの数が少ない患者」は、もともと全身状態が悪かったために、歯科や栄養の専門家が早期に介入しており、抗がん剤治療中も栄養状態が維持されていました。
岡山大学病院歯科・予防歯科部門の山中玲子助教、岡山大学学術研究院医歯薬学域(歯)予防歯科学の江國大輔教授らのグループと、岡山大学病院消化管外科の野間和広講師らのグループは、食道がんの術前抗がん剤治療中は予後推定栄養指数(PNI)が有意に低下すること、特に「奥歯のかみ合わせの数〈機能歯ユニット(FTU)〉が多い患者」で著しく低下することを確認しました。これらの研究成果は12月19日、スイスの栄養関連の科学雑誌「Nutrients」の Research Articleとして掲載されました。
食道がんの手術前の抗がん剤治療中の「PNI」と「歯科的な因子」との関連を探索的に分析したところ、予想に反し、特に「奥歯のかみ合わせの数が多い患者」において、「奥歯のかみ合わせの数が少ない患者」よりも栄養状態が大きく悪化していました。詳しく分析すると、「奥歯の噛み合わせの数が少ない患者」は、抗がん剤治療前から口腔内や栄養状態が悪かったために、歯科や栄養の専門家チームが早期から介入していました。
これらのことから、口腔内や全身の状態に関わらず、全ての患者に対して、早期(術前の抗がん剤治療前)から専門家のチームが介入することが理想的であると考えられます。現在では、本院を含む多くの病院が、食道がんの術前抗がん剤治療前の早期から多職種の専門家チームが介入するシステムになっています。別の研究では、多職種チームが早期に介入することにより、抗がん剤治療中の口内炎が軽症化し、手術後の体重減少も抑えられることが確認されています。
◆研究者からひとこと
以前の研究では、術前にPNIが低い患者さんでは、かみ合っている奥歯の数が少ないことを確認していました。そのため、術前の抗がん剤治療中も、かみ合っている奥歯の数が少ない患者さんにおいて栄養状態が悪化するのではないかと、予想していました。 今回、正反対の結果になったため驚きましたが、かみ合っている奥歯の数が少ない患者さんは、栄養や歯科の介入が早期から始まっていたことがわかって、当然の結果だと思いました。 | ![]() 山中助教 |
■論文情報
論 文 名:Association Between Change in Prognostic Nutritional Index During Neoadjuvant Therapy and Dental Occlusal Support in Patients with Esophageal Cancer Under Neoadjuvant Therapy: A Retrospective Longitudinal Pilot Study
掲 載 紙:Nutrients
著 者:Reiko Yamanaka-Kohno, Yasuhiro Shirakawa, Mami Inoue-Minakuchi, Aya Yokoi, Kazuhiro Noma, Shunsuke Tanabe, Naoaki Maeda, Toshiyoshi Fujiwara, Manabu Morita, Daisuke Ekuni
D O I:https://doi.org/10.3390/nu16244383
U R L:https://www.mdpi.com/2072-6643/16/24/4383
■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤研究(C)・16K11858、研究代表:山中玲子)の支援を受けて実施しました。
また、本論文のオープンアクセス化は、文部科学省「オープンアクセス加速化事業」の取組みの一環で実施している「インパクトの高い国際的な学術誌へのAPC支援」による支援を受けています。
<詳しい研究内容について>
かみ合っている奥歯の数が多い患者の方が抗がん剤治療中に栄養状態が悪化するのはなぜか?~歯科や栄養を含む専門家チームの早期介入の有無が鍵~
<お問い合わせ>
岡山大学病院 歯科・予防歯科部門
助教 山中 玲子
(電話番号)086-235-6712
(FAX)086-235-6714