国立大学法人 岡山大学

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線虫が塩味の好みを逆転するしくみを解明―神経回路は餌と共に育った環境塩濃度を記憶し、その方向へ線虫をナビゲートする―

2025年03月10日

岡山大学
室蘭工業大学

ポイント

  • C. elegans(線虫)は、餌と共に飼育された環境塩濃度を好み、その方向へ進んでゆく性質を示す。
  • つまり現環境より高塩濃度下で育った線虫は塩味を好み、逆に低塩濃度育成の線虫は塩味を嫌う。
  • 飼育環境に依存した塩濃度記憶による塩味の好みの逆転は、塩を検知する感覚ニューロンとその下流の介在ニューロンの間の結合特性の反転を導く「シナプス可塑性」に起因することを、シミュレーション実験を用いて実証した。
  • これはヒトを含む哺乳類では観測されていない、新たなタイプのシナプス可塑性である。

研究の概要
 岡山大学大学院環境生命自然科学研究科博士前期課程1年 弘中 誠勝 大学院生と、室蘭工業大学大学院工学研究科墨 智成 教授(研究当時:岡山大学異分野基礎科学研究所 准教授)は、機械学習の一種である進化的アルゴリズムを適用し、線虫の塩走性を再現する神経回路モデルを生成することで、(1)餌と共に育てられた環境塩濃度を記憶としてコード化する仕組み、(2)コード化された塩濃度記憶を読み出し、塩嗜好性(塩味の好み)を逆転させる新たなタイプのシナプス可塑性、(3)好みの塩濃度方向へ線虫をナビゲートする神経回路メカニズムを、シミュレーション実験を用いて明らかにしました。
 ヒトを含むマウスなどの学習や記憶では、興奮性シナプス結合の強度を強めたり弱めたりする、いわゆる長期増強/長期抑制と呼ばれるシナプス可塑性の関与が知られています。一方、塩濃度勾配下の線虫において観測される好みの塩濃度方向へ徐々に向きを変えながら進む風見鶏と呼ばれる塩走性では、塩濃度変化を検知する感覚ニューロンとその下流に位置する介在ニューロンの間のシナプス結合特性を、興奮性から抑制性へ反転させる新規のシナプス可塑性により、塩嗜好性を逆転している事が、シミュレーション実験を通じて明らかとなりました。
 本研究による知見は、種を超えて観測される文脈依存的走性を制御する神経回路において、連合学習と記憶の読み出しがどのように実現されるのか、その根底にあるメカニズムを解明してゆくための基盤となることが期待されます。
 本研究成果は令和7年2月19日に国際科学誌 elife に掲載されました。

発表者

弘中 誠勝岡山大学大学院環境生命自然科学研究科博士前期課程1年
墨 智成室蘭工業大学大学院工学研究科しくみ解明系領域
研究当時:岡山大学異分野基礎科学研究所
教授
准教授

論文情報
論文名:A neural network model that generates salt concentration memory-dependent chemotaxis in Caenorhabditis elegans
雑誌:elife
著者名:Masakatsu Hironaka, Tomonari Sumi
DOI:10.7554/eLife.104456

研究資金
 本研究成果は、令和6年度第46回両備檉(てい)園記念財団 生物学研究助成金、並びに科学研究費助成事業(23K23156)により助成を受けています。

<詳しい研究内容について>
線虫が塩味の好みを逆転するしくみを解明―神経回路は餌と共に育った環境塩濃度を記憶し、その方向へ線虫をナビゲートする―


研究に関する問い合わせ
室蘭工業大学大学院工学研究科しくみ解明系領域 教授
墨 智成(すみ ともなり)
Tel:0143-46-5724

報道に関する問い合わせ
国立大学法人室蘭工業大学総務広報課秘書広報係
Tel:0143-46-5008

岡山大学総務・企画部広報課
Tel:086-251-7292

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