リンが少ない土壌でも育つ植物のしくみを発見―根の皮層からの分泌がカギ―
2025年05月27日
◆発表のポイント
- 超低リン耐性植物(リンが少ない土壌でも育つ植物)は、リン吸収を促進する有機酸や酸性ホスファターゼ(酵素)の分泌が、クラスター小根の「皮層組織」から起きていることを突き止め、根分泌を担う組織を特定した。
- 超低リン耐性植物は、土壌からの物質侵入を防ぐスベリン外皮が形成されないため、根の皮層からの分泌物が根圏(根の周辺)土壌にスムーズに拡散され、他の植物に比べて根からの分泌能力が高いことが明らかになった。
- クラスター根の高いリン獲得能力を作物に応用できる可能性がある。
南西オーストラリアに自生するピンクッションハケア(Hakea laurina)は、超低リン耐性植物の一種であり、リンが少ない環境に応答してクラスター根と呼ばれる特殊形態の根を形成します。クラスター根は、通常の根と比べて細かい側根がブラシのように密集しており、根の表面積を大幅に広げることで、効率的にリンを吸収します。また、多量の有機酸や酸性ホスファターゼなどの分泌物を放出して根圏(根の周辺)土壌中のリンを吸収しやすい形に変える働きにも優れています。
これまで、こうした分泌は主に根の表皮から行われていると考えられてきましたが、根分泌能力の優れたヤマモガシ科植物においては、分泌に関与する遺伝子や、分泌が起こる細胞の詳細な場所については明らかになっていませんでした。その背景には、ヤマモガシ科植物が木本植物であるため生育が遅く、さらに分子生物学的手法の適用が限定的であったことから、研究の難易度が高かったという事情があります。そのため、根分泌に関するメカニズムは、これまで十分に解明されていませんでした。
我々は、本研究においてピンクッションハケア(Hakea laurina)のクラスター根で特異的に発現するリンゴ酸トランスポーター遺伝子HalALMT1を同定し、その働きや組織内での存在位置を詳しく調べ、酸性ホスファターゼの活性染色試験(酵素の活性を色の変化で確認する方法)を通じて、有機酸や酸性ホスファターゼの分泌がクラスター小根の皮層組織から起こっていることを突き止めました。
加えて、通常多くの植物がもつ土壌からの物質侵入を防ぐスベリン外皮が形成されないことを確認し、皮層からの分泌物が根のまわりの土壌にスムーズに拡散されることで、根分泌能の向上を図っていることを明らかにしました。
■論文情報
論文誌名:New Phytologist (June 2025, Vol. 246 Issue 6, pp. 2597-2616)
論文題目:HalALMT1 mediates malate efflux in the cortex of mature cluster rootlets of Hakea laurina, occurring naturally in severely phosphorus-impoverished soil
著者:Hirotsuna Yamada, Lydia Ratna Bunthara, Akira Tanaka, Takuro Kohama, Hayato Maruyama, Wakana Tanaka, Sho Nishida, Tantriani, Akira Oikawa, Keitaro Tawaraya, Toshihiro Watanabe, Shu Tong Liu, Patrick M. Finnegan, Hans Lambers, Takayuki Sasaki, Jun Wasaki
DOI:10.1111/nph.70010
※本研究の論文掲載にあたり、広島大学からの投稿費用(Article Processing Charge, APC)の助成を受けました。
<詳しい研究内容について>
リンが少ない土壌でも育つ植物のしくみを発見―根の皮層からの分泌がカギ―
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Tel: 082-424-2048
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