国立大学法人 岡山大学

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pH応答性ナノカーボンが切り拓くがん治療-バイオインターフェースの動的制御による高精度ドラッグデリバリー-

2025年06月03日

◆発表のポイント

  • 酸化グラフェンなどのナノマテリアルは、EPR効果を利用して腫瘍部位に集積し、がん治療におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が期待されています。しかし、生体内では免疫系に捕捉されやすい問題があります。
  • 本研究では、グラフェン表面に親水性高分子ポリグリセロールを修飾し、pH応答性の電荷反転型ナノマテリアルを開発しました。腫瘍の酸性環境下で正に帯電し、がん細胞への取り込みを促進します。
  • 化学と生物学を融合したアプローチにより、ナノバイオインターフェースを動的に制御し、腫瘍細胞への取り込み効率を大幅に向上させました。マウス実験で腫瘍への高い集積と細胞内取り込みを実現し、副作用を回避しました。

 岡山大学学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所)のヤジュアン・ゾウ(Yajuan Zou)助教(特任)と仁科勇太教授らの研究グループは、フランス国立科学研究センター(CNRS)ストラスブール大学のアルベルト・ビアンコ(Alberto Bianco)博士との国際共同研究により、pH応答性の電荷反転型表面を有するポリグリセロール修飾酸化グラフェンの開発に成功しました。
 本研究では、このナノ材料を用いて、生体内でのナノバイオインターフェース(5)の動的制御を実現し、がん細胞への取り込み効率を飛躍的に高めることに初めて成功しました。
 本成果は、化学と生物学の融合によってがん治療に新たな戦略を生み出す革新的なものであり、将来的には抗がん剤の高精度なドラッグデリバリーへの応用が期待されます。
 なお、本研究成果は、Wiley社が発行する学術雑誌「Small」のオンライン版にて、6月1日に掲載されました。

◆研究者からひとこと

ナノ材料のpH応答性を生体内でうまく制御できれば、がんの診断と治療を一体化した「セラノスティクス」への応用が現実的になります。さらにこの研究は、細胞内小器官の酸性環境を標的とした、より高精度な治療のためのpH応答性ナノ材料の設計にも新たなヒントを与えると考えています。
Zou助教(特任)
化学の視点から生物学の研究に取り組むという、普段とは異なる挑戦がとても新鮮で、楽しく取り組むことができました。Zou助教やBianco博士とは何度もディスカッションを重ね、そのたびに多くの学びがあり、最終的に論文という形にまとめることができました。2025年からはフランス国立科学研究センター(CNRS)ストラスブール大学との国際共同研究プロジェクト「IRP C3M」も本格的に始動しています。今後も、より大きな成果につなげられるよう努力していきたいと思います。
仁科 教授

■論文情報
論 文 名:Polyglycerol-Grafted Graphene Oxide with pH-Responsive Charge-Convertible Surface to Dynamically Control the Nanobiointeractions for Enhanced in Vivo Tumor Internalization
掲 載 紙:Small
著  者:Yajuan Zou, Alberto Bianco, Yuta Nishina
D O I:10.1002/smll.202503029
U R L:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/smll.202503029

<詳しい研究内容について>
pH応答性ナノカーボンが切り拓くがん治療-バイオインターフェースの動的制御による高精度ドラッグデリバリー-


<お問い合わせ>
岡山大学異分野基礎科学研究所
教授 仁科 勇太
(電話番号)086-251-8718

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