◆発表のポイント
- メスとの交尾を巡ってオス同士が戦う行動は多くの生物で研究されてきました。昆虫でも角を使って相手オスを投げ飛ばすカブトムシなど多くの研究事例が知られています。
- 今回、私たちはオス同士の戦いで、互いに相手オスの脚をかみ合う珍しい闘争をする大型甲虫のツヤケシオオゴミムシダマシを使って実験した結果、戦いに負けたオスは、戦っていないオスに比べ、メスに上手く精子を渡せないことを発見しました。
- これまで一般に戦いに負けたオスはメスに渡す精子数を増やすことが分かっていました。しかし、驚くべきことに本結果では、負けたオスはメスに精子を上手く渡せないという逆の結果が得られました。さらに戦いが長く続くほど戦ったオスがメスに渡せる精子の量は少なくなる一方、体サイズの小さなオスはメスに渡す精子の数が多いなど、オスの状態次第でメスに渡せる精子数が著しく変わることが初めてわかりました。一連の結果は、戦いの勝敗がその後にオスが残せる子の数を変えるという闘争の代償について、そのメカニズムを明らかにしたと言えます。
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科博士後期課程3年の松浦輝尚大学院生と岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)の宮竹貴久教授は、去年、ツヤケシオオゴミムシダマシ(通称: ジャイアントミルワーム)のオス同士で脚をかみ合う闘争で負けたオスの子供の数が減ることを発見しました。今回は、その減少の原因を詳しく調査したところ、戦いに負けたオスは、メスに精子をうまく渡せなくなることを明らかにしました。オス同士の闘争の勝敗による子供の数と精子への両方の影響が明らかにされた種は限られており、本研究は脚をかむ闘争による敗北がメスに渡す精子量の減少の原因であることを明らかにした世界初の研究成果となりました。また、この種では闘争時間が長引くほどオスがメスに渡せる精子数が減少すること、またオスの体サイズが小さいほど潜在的にメスに多くの精子を渡せることも明らかにしました。この研究成果は6月16日午前0時(日本時間)、Springerの日本動物行動学会誌「Journal of Ethology」にオンライン掲載されました。
◆研究者からひとこと
多くの動物種のオス同士の闘争で、負けたオスはメスに渡す精子数を増加させることが明らかになっています。しかし、驚くべきことにジャイアントミルワームでは負けたオスはメスに精子を上手く渡せていないという従来とは逆の結果が得られました。多様性の高い昆虫では新発見がたくさん隠されているのも知れません。 | ![]() 松浦輝尚大学院生 |
■論文情報
論文名:
Leg-biting fights reduce the number of sperm transferred by the loser and in draws in Zophobas atratus
邦題名「ジャイアントミルワームの脚咬み闘争は敗者と引き分けオスの移送する精子量を減少させる
掲載誌:Journal of Ethology
著者:Teruhisa Matsuura, Takahisa Miyatake
DOI:10.1007/s10164-025-00850-y
U R L:https://link.springer.com/article/10.1007/s10164-025-00850-y
■研究資金
本研究は独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費」(研究・23K21343,25K09771研究代表:宮竹貴久)、岡山大学大学院環境生命自然科学研究科・学生奨励研究費の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
闘争の代償は精子の量~負けても戦いすぎてもオスはメスに精子を渡せなくなる~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)
宮竹貴久
(電話番号)086-251-8339 (FAX番号)086-251-8388