◆発表のポイント
- LGBTのユース(子ども・若者)に悩みを相談できる場所や機会をメタバースで1年間提供
- 現実空間と比べ、自己表現や対人自信感が有意に高いことを証明
- 世界初となるLGBTユース専用メタバース支援グループの有効性を検証
LGBTユースに関する調査によれば、91.6%が保護者にカミングアウトできておらず、学校や家庭での悩みを打ち明けることが難しいという実態が明らかとなっており、実に48%が自殺を考えたことがあるとの報告があります。このような深刻な課題に対し、岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)医療情報化診療支援技術開発講座の長谷井嬢教授(整形外科)は、メタバースを活用してLGBTユースの支援ができないかと考案し、一般社団法人「にじーず」と協力し、2024年1月よりメタバースを活用した支援グループを開始しました。今回、1年間の活動期間の解析を行い、参加者がアバターを通じて自分の望む性別を自由に表現でき、高い満足度と心理的違和感の低減を実感していることを明らかにしました。また、自己表現や心理的安全性、アクセシビリティの評価が現実空間より有意に高く、特に現実世界の対人関係の自信が低い若者ほどメタバース空間での自信向上が顕著であることがわかりました。本研究成果はメタバース分野で世界をリードする査読付き国際学術誌『Journal of Metaverse』に掲載され、LGBTユースの心理支援に新たな可能性を示しています。
◆研究者からひとこと
私の専門は骨軟部腫瘍なのですが、小児・若年成人に多い希少がんの患者さんたちの孤立・孤独を緩和するために、メタバースを活用した交流機会の提供を行ってきました。LGBTのユースたちが抱えている孤独感には、希少がんの患者さんとの共通点を感じ、医師としてこの問題にどのように貢献できるかを模索し、活動を進めてきました。この1年の活動の結果、メタバースがLGBTのユースにとって重要な心理的安全の場となることが確認され、自己肯定感や孤独感の軽減につながっている事も明らかとなりました。LGBTユースへのメタバース支援の有効性を証明した初めての報告になります。支援グループへのアクセスが困難な地域の方や、自分の性的指向を周囲に伝えられない方々にとって、メタバースは大きな可能性を持っており、国内だけでなく、世界的な支援の輪につながることを祈っています。 | ![]() 長谷井教授 |
■論文情報
論 文 名: Metaverse Support Groups for LGBTQ+ Youth: An Observational Study on Safety, Self-Expression, and Early Intervention
掲 載 紙:Journal of Metaverse
著 者:Joe Hasei, Yosuke Matsumoto, Hiroki Kawai, Yuko Okahisa, Manabu Takaki, Toshifumi Ozaki
D O I:10.57019/jmv.1639701
U R L:https://dergipark.org.tr/en/pub/jmv/issue/91863/1639701
■研究資金
本研究は、公益財団法人 橋本財団 2023年度 福祉助成(FY2023)、こども家庭庁 令和5年度NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業国庫補助、公益財団法人三菱財団 社会福祉事業・研究助成(No. 202430037)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
地域格差を超えたLGBTユース支援にメタバースが有効であることを世界初実証
<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院医歯薬学域
医療情報化診療支援技術開発講座
教授(特任) 長谷井 嬢
(電話番号)086-235-7273