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◆発表のポイント
- 次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」で、磁性材料のエネルギー損失の原因を明らかにしました。
- 実用材料である無方向性電磁鋼板を対象に、損失の原因を顕微鏡画像上で直接「見える化」することに成功しました。
- トポロジーと熱力学の融合で、環境エネルギー材料を解析する汎用的なAI技術を創出しました。
電気自動車(EV)の心臓部であるモーターでは、磁性材料が発生する「エネルギー損失(鉄損)」が、大きな効率低下の原因となっています。この損失はモーター全体の約30%を占め、世界規模では年間約6億トンのCO₂排出に相当する深刻な課題です。しかしこれまで、その損失のメカニズムは詳しく解明されておらず、材料設計のボトルネックとなっていました。
そこで本研究では、モーターに広く使われる無方向性電磁鋼板(NOES)を対象に、次世代の説明可能AI「拡張型自由エネルギーモデル」を用いて解析しました。本モデルは、数学のトポロジーと熱力学の自由エネルギーの概念を組み合わせて、構造―機能―因果をホワイトボックス的に接続できるモデルです(※1-3)。
解析の結果、エネルギー損失が増大する場所を、顕微鏡画像上に可視化することができました。特に、これまで一括りにされてきた複雑な磁壁(*1)の役割を見分けて、その位置を「見える化」することに、世界で初めて成功しました。これは、実際の材料に潜んでいた知見を引き出す、新たなアプローチとなります。
今回の手法は、物理とデータ科学を融合した次世代の説明可能AIであり、「AI for Science(AI4Science)」を象徴する技術です。熱力学の汎用性を活かして、磁性材料に限らず、半導体デバイスや電池材料など、多様な環境エネルギー材料への展開も期待されます。今後はエネルギー利用の最適化を通じて、未来社会の実現に貢献していきます。
本研究成果は、2025年7月15日に国際学術誌『Scientific Reports』に、オンライン掲載されました。
■論文情報
雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル: Automated identification of the origin of energy loss in nonoriented electrical steel by feature extended Ginzburg–Landau free energy framework
著者: Michiki Taniwaki, Ryunosuke Nagaoka, Ken Masuzawa, Shunsuke Sato, Alexandre Lira Foggiatto , Chiharu Mitsumata, Takahiro Yamazaki, Ippei Obayashi, Yasuaki Hiraoka, Yasuhiko Igarashi, Yuta Mizutori, Sepehri Amin Hossein, Tadakatsu Ohkubo, Hisashi Mogi, Masato Kotsugi
DOI: 10.1038/s41598-025-00357-z
※ 本研究の一部は、日本学術振興会(KAKENHI)科学研究費助成事業(A)(21H04656)、文部科学省革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業(助成番号 JPJ009777)、および科学技術振興機構(JST-CREST・助成番号 JPMJCR21O1)の助成を受けて実施したものです。
【発表者】
谷脇三千輝 | 東京理科大学大学院 2024年度修士課程修了 |
長岡竜之輔 | 東京理科大学大学院 博士課程1年 |
増澤賢 | 東京理科大学大学院 2022年度修士課程修了 |
佐藤駿丞 | 東京理科大学大学院 2022年度修士課程修了 |
Alexandre Lira Foggiatto | 東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 助教 |
三俣千春 | 筑波大学 数理物質系 教授、東京理科大学 マテリアル創成工学科 客員教授 |
山崎貴大 | 東京理科大学 総合研究院 助教 |
大林一平 | 岡山大学 学術研究院異分野融合教育研究領域(AI・数理) 教授 |
平岡裕章 | 京都大学 高等研究院 教授・センター長 |
五十嵐康彦 | 筑波大学 システム情報系 准教授 |
水鳥雄太 | 筑波大学大学院 システム情報系 2023年度修士課程修了 |
Sepehri Amin Hossein | 物質材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究センター グループリーダー |
大久保忠勝 | 物質材料研究機構 磁性・スピントロニクス材料研究センター 副センター長 |
小嗣真人 | 東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 教授 |
<詳しい研究内容について>
次世代AIで磁性材料のエネルギー損失の原因を解明~省エネルギーな次世代EV開発への応用に期待~
【研究に関する問い合わせ先】
東京理科大学 先進工学部 マテリアル創成工学科 教授
小嗣真人
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