◆発表のポイント
- 総務省消防庁が管理する「All-Japan Utstein Registry」を用いて、コロナ流行前後における小児の院外心停止に対する蘇生法の変化と、それが死亡や後遺症に与えた影響を検証しました。
- コロナ禍では人工呼吸の実施が減り、胸骨圧迫のみの蘇生が増えました。その結果、死亡リスクが高まり、年間約10人の子どもが、本来救えたはずの命を失っていた可能性が示唆されました。
子どもの病院外心停止は、窒息や溺水など呼吸障害が原因となることが多く、「人工呼吸」を含む蘇生法(CPR)が必要とされ、その実施が推奨されています。一方、成人では、目撃者によるCPRの実施率を上げるため、近年「胸骨圧迫のみ」を行う蘇生法が普及し、特にコロナ禍では、感染リスクへの懸念から、トレーニングを受けた人でも人工呼吸を控えるよう言われていました。
岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)地域救急・災害医療学講座の小原隆史講師(特任)、同学域救命救急・災害医学の内藤宏道准教授、中尾篤典教授、および学術研究院医療開発領域(岡山大学病院)高度救命救急センターの塚原紘平講師(小児救急科長)らの研究グループは、学術研究院医歯薬学域(医)疫学・衛生学分野の松本尚美助教、賴藤貴志教授らと共同で「All-Japan Utstein Registry」(総務省消防庁)を用いて、コロナ流行前(2017-2019)とコロナ禍(2020-2021)の期間において、小児の院外心停止患者に対する目撃者による蘇生法の変化が、死亡などの転帰に与えた影響を調査しました。その結果、もともと減少傾向にあった人工呼吸の実施率は、コロナの流行をきっかけにさらに約12%も低下していることが判明しました。一方で、増加した胸骨圧迫のみの蘇生法は、子どもの死亡や重い後遺症のリスクと関係しており、コロナ禍には年間10.7人の子どもが、本来助けられたはずの命を失っていた可能性が示されました。
今回の研究は、子どもの院外心停止における人工呼吸の重要性を改めて裏付けるものであり、今後の小児蘇生法の教育のあり方や、感染対策を講じた上での普及啓発、ポケットマスクの開発・整備など、社会全体として取り組むべき課題の必要性を示しています。
本研究成果は7月5日、オランダ Elsevier社の『Resuscitation』に掲載されました。
◆研究者からひとこと
子どもの心停止は、決して他人事ではなく、社会全体にとって大きな問題です。今回の研究が、「どうすればもっと安心して子どもを助けられる社会にできるのか」を皆さんと一緒に考えるきっかけになれば幸いです。 | ![]() 小原講師(特任) | ![]() 内藤准教授 |
■論文情報
論 文 名:Compression Only CPR and Mortality in Pediatric Out-of-Hospital Cardiac Arrest During COVID-19 Pandemic
掲 載 紙:Resuscitation
著 者:Takafumi Obara, Hiromichi Naito, Naomi Matsumoto, Kohei Tsukahara, Takashi Hongo, ∙ Tsuyoshi Nojima, Tetsuya Yumoto, Takashi Yorifuji, Atsunori Nakao
D O I:10.1016/j.resuscitation.2025.110706
U R L:https://www.resuscitationjournal.com/article/S0300-9572(25)00218-7/fulltext
<詳しい研究内容について>
子どもを救う“ひと息”が減っている!?~コロナ禍で蘇生時の人工呼吸が敬遠、小児の救命に影響~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)
地域救急・災害医療学講座 講師(特任) 小原 隆史
(電話番号)086-235-7427