東京科学大学
岡山大学
京都大学
◆【ポイント】
- 作用反作用の法則を実効的に破る「非相反相互作用」を、光照射によって固体中に人工的に生み出す理論を提案
- 磁性金属に応用することにより、二層の磁性金属の磁化が逆向きとなり、“追いかけっこ”をして自発的に回り続ける状態を誘起できることを予言
- 非平衡物質科学の新しい研究領域を切り開き、光制御による量子物質の応用展開につながると期待
東京科学大学(Science Tokyo) 理学院 物理学系の花井亮准教授、岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所)の大槻太毅准教授、京都大学 基礎物理学研究所の田財里奈助教の研究チームは、光を当て、固体中の特定の電子が外へ抜けやすい“出口”を作ることで、通常の物質が従う作用反作用の法則を見かけ上破る「非相反相互作用」を人工的に生み出す方法を理論提案しました。磁性金属二層に適用することで、片方の層では磁化が相手と同じ向きに揃おうとする一方、他方の層では逆向きになろうとし、結果として、二層の磁性金属の磁化が“追いかけっこ”をして自発的に回り続ける状態を誘起できることを予言しました。
熱平衡状態にある通常の物質は、一方の物体が他方に力を加えると、他方も同じ大きさで反対向きの力を同時に返すという基本原理である作用反作用の法則に従います。しかし、外部からエネルギーを注ぎ続ける非平衡系では、この法則が実効的に破れた非相反相互作用が現れることがあります。例えば生命系の運動等を扱うアクティブマター分野では、各個体が自らの内蔵するエネルギーを使うことで、個体間に働く相互作用が非相反になる例が数多く知られています。
本研究では、生命系で普遍的に現れるこの現象を固体に適用し、光で適切な条件の電子にエネルギーを注入する状況を設計することで、磁性体中の電子の相互作用を非相反にする方法を理論的に示しました。これにより、一方の層は相手と同じ方向を向きたがり(強磁性的)、他方の層は逆方向を向きたがる(反強磁性的)状況が生まれ、その結果、二層の磁化が“追いかけっこ”し回転運動する状態になることを予言しました。また、光の周波数や強度を調整するだけで回転のオン・オフや速度を制御でき、発振周波数を入力レーザー強度で変えられる周波数変調機への応用も考えられます。
本成果は、9月18日付(現地時間)の「Nature Communications」誌に掲載されます。
【論文情報】
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Photoinduced non-reciprocal magnetism
著者:Ryo Hanai, Daiki Ootsuki, and Rina Tazai
DOI:10.1038/s41467-025-62707-9
●付記
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(25K00935、25H01364、23K19034、25K07184、21K13882、25H01248、22K14003、20K22328)の助成のもと実施されました。
<詳しい研究内容について>
光照射により「追いかけっこ」して回り続けるスピン-光で電子間の作用反作用の法則を破る-
<お問い合わせ>
【研究者プロフィール】
花井 亮(ハナイ リョウ) Ryo HANAI
東京科学大学 理学院 物理学系 准教授
研究分野:物性理論、非平衡多体系
大槻 太毅(オオツキ ダイキ) Daiki OOTSUKI
岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所) 准教授
研究分野:物性実験、光電子分光
田財 里奈(タザイ リナ) Rina TAZAI
京都大学 基礎物理学研究所 助教
研究分野:物性理論、強相関物性
【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東京科学大学 理学院 物理学系 准教授
花井 亮
TEL:03-5734-2719 FAX:03-5734-2739
岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所) 准教授
大槻 太毅
TEL:086-251-7901
京都大学 基礎物理学研究所 助教
田財 里奈
TEL:075-753-7027
(報道取材申し込み先)
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