岡山大学
三宅医院
◆発表のポイント
- 不妊原因の一つとして口腔疾患である歯周病が関与する可能性を、不妊治療-生殖医療センターとの共同臨床研究および歯周病マウスモデルを用いた動物実験で実証しました。
- 不妊治療中の患者さんでは、自然妊娠した妊婦さんに比べ、歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg菌)の感染度が有意に高い傾向にあることを確認しました。
- 不妊治療の成功率を高めていく上で、歯周病の早期検査と適切な治療が重要である可能性を示す研究成果です。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科歯周病態学分野の永田千晶客員研究員、同大学学術研究院医歯薬学域(歯)歯周病態学分野の大森一弘准教授、高柴正悟教授、三宅医院・不妊治療-生殖医療センター(岡山市南区)の三宅貴仁院長らの研究グループは、不妊治療中の患者さんは、歯周病原細菌の一つであるPorphyromonas gingivalis(Pg菌)の感染度が高いこと、そしてPg菌を感染させた歯周病マウスモデルを用いた動物実験において、雌性マウスの子宮に異常(肥大化)が生じて、出生数の減少、胎児の低体重化といった悪影響が出ることを世界で初めて確認しました。本研究成果は2025年10月7日付で国際学術誌Scientific Reportsに掲載されました。
今回の研究成果は、口の病気である歯周病が、これまでに報告されていた早産・低体重児出産だけではなく、不妊環境の構築にも関与する可能性を示唆するものです。少子化が進む現代社会において、不妊治療の成功率を高めていくことが望まれます。そして、不妊治療の成功だけではなく、授かった新たな命が無事誕生することも重要です。そのためにも、口(くち)の環境を妊娠活動または不妊治療開始前までに整えることが重要であることをあらためて提案するものです。
◆研究者からひとこと
研究開始当初、口の病気である歯周病が不妊と深く関わっているとは正直思っていませんでした。ただ、実際に不妊治療を受けられている患者さん、そして自然妊娠された妊婦さんのご協力を得て行った臨床研究の結果を解析するにつれて、仮説から確信に変わっていきました。今回の研究にご協力いただいた皆さまに感謝いたします。 | ![]() 永田千晶 客員研究員 |
歯周病が不妊に関与している可能性を感じたのは、不妊に悩む歯周病(侵襲性歯周炎)患者さんの実際の治療経験からです。重度に進行した歯周病に対して、再生療法を含む専門的な歯周病治療を行ったところ、歯周病治療終了直後に自然妊娠され、患者さん共々驚きました。今回、新たな不妊原因として歯周病の可能性を見出せたことは、生殖医療分野における医科歯科連携推進に寄与できる成果と考えます。 | ![]() 大森一弘 准教授 |
不妊治療を希望するカップルの数は増加の一途を辿っています。 一組でも多くの希望を叶えるために日々診療を行っていますが、不妊症の原因はまだまだ解明されていないことが多くあります。 今回、不妊症と口腔疾患である歯周病の関与が示唆されたことは生殖医療の分野における画期的な発見であり、これからの不妊治療における妊娠率の向上に繋がることを期待します。 | ![]() 三宅貴仁 院長 |
■論文情報
論文名:Periodontitis associated with Porphyromonas gingivalis infection is a risk factor for infertility through uterine hypertrophy.
掲載誌:Scientific Reports (2025) 15, 34964
Chiaki Kamei-Nagata, Kazuhiro Omori, Hidefumi Sako, Kyosuke Sakaida, Masa-aki Nakayama, Toshiaki Ohara, Hiroki Mandai, Moyuka Kubota-Takamori, Fumiko Kiyama, Takayuki Ishii, Kimito Hirai, Atsushi Ikeda, Kazu Takeuchi-Hatanaka, Yuki Shinoda-Ito, Masako Tai-Tokuzen, Ai Sakamoto, Machiko Kiyokawa, Tomomi Yamanishi, Takashi Oda, Masayuki Takigawa, Tadashi Yamamoto, Takahito Miyake, Shogo Takashiba
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-025-18992-x
■研究資金
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金・若手研究、基盤研究(B)および挑戦的研究(萌芽)の支援を受けて実施しました。
課題番号:21K16992,23K27773,24K22249
<詳しい研究内容について>
不妊と歯周病が関連する!〜不妊原因としての歯周病原細菌感染の可能性〜
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(歯)歯周病態学分野
准教授 大森 一弘
(電話番号)086-235-6677
(FAX) 086-235-6679