◆発表のポイント
- 個別に報告されてきた「排熱を効率的に電気へ変換する仕組み」を、有機高分子(ポリマー)系複合熱電変換材料について体系的に整理し、材料設計のガイドラインとしてまとめました。
- 従来は両立が難しかったゼーベック係数と導電率を、同時に向上させるための設計指針を明確に示しました。
- 複合材料の種類に応じて、界面エネルギー障壁の高さを一般に0.05〜0.1 eVの範囲に最適化することで、低エネルギーキャリアを効果的に遮断し、高エネルギーキャリアのみを選択的に輸送できることを示しました。
- 150 ℃以下の未利用排熱を、軽量で柔軟な有機高分子材料によって効率的に電力へ変換でき、持続可能で低炭素な社会の実現に貢献します。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(工)の林靖彦 教授は、エチオピアのBahir Dar University、中国のSouthern University of Science and Technology、Jianghan University、シンガポールのAgency for Science、 Technology and Research (A*STAR)、National University of Singapore、Nanyang Technological Universityの研究者等と共同で、有機高分子(ポリマー)系複合熱電変換材料の性能向上に関する体系的レビュー論文を発表しました。この研究成果は、2025年9月5日に英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)の学術雑誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載(First published)されました。
熱電変換材料・素子は、排熱を直接電気に変換できるエネルギー材料・技術として注目されています。特に有機高分子系複合熱電変換材料は、低コストでフレキシブル、軽量という利点を持ちながら、温度差から電圧を生み出す指標「ゼーベック係数」と、電気の流れやすさの指標「導電率」の両者を高めることが望ましいが、両者がトレードオフの関係にあるため高効率化が困難でした。本論文では、有機高分子複合材料中で異なる材料が接する界面のエネルギー障壁で、低エネルギーキャリアを遮断し、高エネルギーキャリアのみを透過させ、この結果、流れるキャリアは平均して高いエネルギーを持つ「エネルギーフィルタリング効果」を整理し、四つの複合材料カテゴリごとに熱電変換特性を向上させる設計指針を網羅しました。
本成果は、ウェアラブルデバイスやフレキシブルセンサー、自立電源デバイス、環境中の150℃以下の低温排熱回収などへの応用に直結し、持続可能社会に貢献する新しいエネルギー変換技術の基盤を築くものです。
◆研究者からひとこと
有機高分子複合材料熱電変換材料・素子の研究では、経験的な条件最適化の域を出ず、得られた結果を普遍的な設計原理へと体系化するには至っていませんでした。本研究は、これまで熱電変換材料・素子について国際共同研究を行ってきたエチオピア、中国、シンガポールのグループと共同で、社会実装を推し進める設計原理の体系化に取り組んだ成果です。 | ![]() 林靖彦 教授 |
■論文情報
論 文 名:Interface engineering in polymer thermoelectric composites: harnessing energy-filtering effects to overcome the Seebeck-conductivity trade-off
掲 載 紙: Journal of Materials Chemistry A
著 者: Temesgen Atnafu Yemata, Aung Ko Ko Kyaw, Yun Zheng, Jianwei Xu, Wee Shong Chin, Qiang Zhu and Yasuhiko Hayashi*
D O I: 10.1039/d5ta05957g
U R L: https://doi.org/10.1039/D5TA05957G
■研究資金
著者の林靖彦は、JSPS科研費(24K00928)の支援を受けて本研究の一部を実施しました。
<詳しい研究内容について>
次世代有機高分子系複合熱電変換材料の新しい設計指針を確立 熱電変換複合材料設計のための体系的指針
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院 環境生命自然科学学域
教授 林 靖彦
(電話番号)086-251-8230
(FAX)086-251-8230(林)