膀胱三角部は尿意の感覚中枢だった~頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁や膀胱痛の原因解明に一歩前進~
2025年10月30日
◆発表のポイント
- 膀胱三角部は、膀胱のなかでも最も密な感覚神経ネットワークを有する感覚の中心であることを文献的に考察し発表しました。
- 感覚受容体やPIEZO2、P2X3、TRPV1など、頻尿や膀胱痛に関与する分子群が膀胱三角部に集中していることが報告されています。
- 膀胱三角部の感覚特性を理解することは、将来的にETA頻尿治療(岡山大学発新技術)といった新規治療開発につながる可能性を示唆しています。
岡山大学学術研究院医療開発領域(岡山大学病院 腎泌尿器科)の定平卓也研究准教授、同領域(岡山大学病院 新医療研究開発センター)の渡部昌実教授らの研究グループは、膀胱三角部(膀胱の出口側に位置する三角形領域)が単なる構造物ではなく、感覚情報の集約拠点として機能していることを文献的に考察し、発表しました。本研究は、膀胱三角部の神経構造・分子発現・臨床的意義を総合的に整理したレビューであり、2025年10月19日、米国誌「Cureus」に掲載されました。
膀胱三角部には、伸展や化学刺激に反応する感覚神経が高密度に存在し、ATP(アデノシン三リン酸)や神経ペプチドを介して尿意や痛みを中枢に伝達しています。さらに、機械刺激受容体PIEZO2、プリン受容体P2X3、カプサイシン受容体TRPV1の発現が高く、過活動膀胱や間質性膀胱炎などの疾患で過敏化することも分かっています。これらが過活動膀胱や間質性膀胱炎における異常な尿意や痛みの発生に深く関与していることが示唆されました。さらに同領域の神経は、炎症や加齢によって可塑的変化を示し、慢性的な過敏化へつながることも報告されています。臨床的には、この膀胱三角部に発現する受容体等を標的とする薬剤、すなわちボツリヌストキシンなどが過剰に興奮した感覚神経を抑制し、一連の症状を軽減する可能性が示唆されています。
◆研究者からひとこと
| 長年、過活動膀胱(頻尿・夜間頻尿・切迫感・切迫性尿失禁)や間質性膀胱炎(膀胱痛・尿道痛)の診療を行う中で、患者様が訴える強い尿意、頻尿による行動制限、夜間頻尿による不眠、排尿時の何とも言えない違和感、膀胱出口付近の不快感、生活に支障をきたす膀胱痛の生理的背景を明らかにしたいと考えていました。今回、膀胱三角部の感覚機構を体系的に整理できたことは、将来の新しい治療戦略、特に岡山大学で研究開発されたETA頻尿治療の基盤になると感じています。 | ![]() 渡部昌実教授 |
| 膀胱というと、「尿を貯めるだけの袋」と思われがちですが、実はとても繊細な感覚器官です。尿意を感じる仕組みはいまだ完全には解明されていませんが、膀胱の出口側にある膀胱三角部を中心に、感覚神経が網のように張り巡らされていることが分かってきました。私たちはこの尿意のセンサーの働きをより理解し、将来的には「尿意そのものをコントロールする治療」につなげたいと考えています。現在、頻尿・夜間頻尿・尿意切迫感・尿漏れ・膀胱痛や不快感といった日常生活に支障を来す症状を和らげるために、ETA頻尿治療という新しい技術の研究開発を進めています。ボツリヌストキシンなどの薬剤も、この領域で大きな可能性を秘めています。今後は、神経科学や材料工学の研究者、あるいは製薬企業、デバイス開発の専門家の方々と連携しながら、膀胱の感覚のバランスを整える技術をともに育てていきたいと考えています。 | ![]() 定平研究准教授 |
■論文情報
論 文 名:Bladder Trigone as a Sensory Hub: A Narrative Review
掲 載 誌:Cureus
著 者:Takuya Sadahira, Yuki Maruyama, Yosuke Mitsui, Takanori Sekito, Tomofumi Watanabe, Masami Watanabe
D O I:https://doi.org/10.7759/cureus.94951
■研究資金
本研究は、公益財団法人山陽放送学術文化財団第56回学術研究助成(研究代表者:定平卓也)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
膀胱三角部は尿意の感覚中枢だった~頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁や膀胱痛の原因解明に一歩前進~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医療開発領域(岡山大学病院腎泌尿器科)
研究准教授 定平卓也
(電話番号)086-235-7287 (FAX)086-231-3986

