◆発表のポイント
- 鳥類の「色」を司るアグーチシグナルタンパク質(ASIP)と、「食」を司るアグーチ関連タンパク質(AGRP)は、共通の祖先遺伝子から生まれた“兄弟分子”です。
- 本研究により、ASIPは進化の過程で生じたN末端ドメイン構造の違いにより、AGRPに比べて細胞から分泌されにくい性質をもつことを明らかにしました。
- この成果は、鳥類が多様な調節タンパク質を使い分けて「色」と「食」を制御するようになった背景を、分子レベルで理解するための新たな手がかりを提供します。
鳥類の体色や食欲を制御する“兄弟分子”ASIPとAGRPは、共通の祖先から生まれたにもかかわらず、まるで性格のように異なる分泌特性をもつことが分かりました。
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科の福地響紀大学院生(OU-SPRING学生)と学術研究院環境生命自然科学学域の竹内栄教授、相澤清香准教授らの研究グループは、その進化的背景を分子レベルで明らかにしました。
哺乳類や鳥類では、ASIPとAGRPはいずれもメラノコルチン受容体を介して働き、それぞれ「色(メラニンによる体色)」と「食(摂食・代謝)」を制御しています。両者は共通の祖先遺伝子から遺伝子重複によって生じた“兄弟分子”(パラログ)ですが、分泌特性に違いがあるかどうかは不明でした。研究グループはニワトリのASIPとAGRPの分泌特性を比較解析した結果、ASIPはAGRPに比べて細胞から分泌されにくく、この差異にはASIPのN末端ドメイン構造が関与することを突き止めました。さらに、この構造がプロテアソームを介したタンパク質分解を誘導し、分泌を制限していることも明らかにしました。本成果は、同じ起源をもつ二つの“兄弟分子”が、「体色制御」と「摂食調節」という異なる機能(「職」)を担うようになった背景に、細胞内輸送を決定づける構造の違いが関わっていることを示すものです。ASIPとAGRPの分泌特性の違いは、鳥類が「色」と「食」を巧みに制御するようになった進化の道筋を解き明かす手がかりとなります。本研究成果は、2025年11月1日に国際学術誌『Comparative Biochemistry and Physiology, Part B』オンライン版に掲載されました。
◆研究者からひとこと
| 鳥類の羽の色模様は、点描画のように精緻で、細やかな制御の積み重ねによって生み出されています。ASIPというタンパク質の分泌特性が、その巧みな色づくりに関わることを明らかにしました。分子の性質を手がかりに進化の道筋をたどることで、鳥類がどのように多様な環境に適応してきたのかを理解する一助になると考えています。 | ![]() 第一著者の福地大学院生 |
■論文情報
論 文 名:N-Terminal Domains and Site-Specific Glycosylation Regulate the Secretion of Avian Melanocortin Inverse Agonists, Agouti Signaling Protein (ASIP) and Agouti-Related Protein (AGRP)
掲 載 誌:Comparative Biochemistry and Physiology, Part B
著 者:Hibiki Fukuchi, Ryoya Watanabe, Yuna Iida, Saya Nakano, Aya Mizutani, Tatsuhiko Abo, Sayaka Aizawa, Sakae Takeuchi
D O I:https://doi.org/10.1016/j.cbpb.2025.111174
U R L:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1096495925001058
■研究資金
本研究は、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2126)の支援を受けて実施しました。
また、科学研究費補助金(基盤研究C:23K05851)の助成を受けています。
<詳しい研究内容について>
鳥の「色」と「食」:「職」の違いは性格で決まる?~“兄弟分子”がたどった進化のストーリー~
<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院環境生命自然科学学域(理)
教授 竹内 栄
(電話番号)086-251-7868
(FAX) 086-251-7876
