◆発表のポイント
- 喜界島ビスインドールアルカロイドは、2005年に鹿児島県喜界島にて採取された紅藻ソゾノハナLaurencia brongniartiiから単離された天然物であり、構築の難しいC3’N1ビスインドールを持ち、高い反応性を持つ硫黄ユニットや臭素を複数持つ合成最難関化合物の一つで、全合成は未達成でした。
- インドールを骨格とする天然物の中でも、硫黄を含有する化合物群は、がん細胞に対する細胞毒性、抗炎症作用、抗菌活性などさまざまな薬理作用を示すことが報告されていました。
- 著者らは、「反応性の高い原子を一時的に別の原子に置き替える」、「還元体を用いることで反応点を無くす」ことで反応する原子を限定し、選択的に置換基を導入することに成功しました。
- これらの手法を活用することで、喜界島ビスインドールアルカロイドの全合成を世界で初めて達成しました。
- 今後、合成した天然物の薬理作用の解明や本合成法を活用した類縁体の合成によって、C3’N1ビスインドール骨格を有する新たな医薬品の開発が期待されます。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)創薬有機化学分野の徳重慶祐大学院生(博士後期課程3年)、同学術研究院医歯薬学域(薬)精密有機合成化学分野の阿部匠講師は、C3’N1ビスインドールの段階的な芳香族化を活用した選択的な置換基の導入により、喜界島ビスインドールアルカロイドの全合成を世界で初めて達成しました。初全合成の鍵は、フラスコ中で反応性の高い水素原子をハロゲン(8)原子に置き替え、反応終了まで一時的にしのぐ「松の木柱も三年」戦略を見つけたことにあります。
また、今回の研究成果はアメリカの化学誌『Journal of Natural Products』にて発表しています。
今後、合成した天然物の薬理作用の解明や本合成法を活用した類縁体の合成によって、C3’N1ビスインドール骨格を有する新たな医薬品の開発が期待されます。
◆研究者からひとこと
| 実を言うと喜界島は、私の生まれ故郷です。この天然物がそこで取れたものと知ってから、どうにか初全合成を勝ち取れないかと試行錯誤の日々でした。1工程進めるのに1ヶ月を要してしまうこともありましたが、無事、全合成を達成できたことをうれしく思います。本研究を契機として、お世話になった地元から医薬品候補化合物が見出されることを切に願います。(徳重) | ![]() 徳重大学院生 | ![]() 阿部講師 |
■論文情報
論文名:First Total Synthesis of the Kikai Island Polybrominated C3’-N1 Bisindole Alkaloid by a Directed Metalation Strategy
掲載誌:Journal of Natural Products
著者:Keisuke Tokushige, Takumi Abe
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jnatprod.5c01131
■研究資金
本研究は地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)および岡山大学 次世代研究者挑戦的研究プログラム(OU-SPRING)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
ヨウ素を「松の木柱」に見立てた新戦略~喜界島ビスインドールアルカロイドの全合成を世界で初めて達成~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(薬)
講師 阿部 匠

