◆発表のポイント
- 溺水は低酸素による呼吸障害の代表とされ、人工呼吸を含む蘇生(換気)が重要とされています。
- 総務省消防庁が管理する「All-Japan Utstein Registry」を用いて、2012~2023年の小児溺水関連院外心停止を対象に、蘇生法の変化と転帰への影響を検証しました。
- その結果、人工呼吸の実施は減少し、胸骨圧迫のみの蘇生は増加していました。さらに、胸骨圧迫のみの蘇生は死亡や重い後遺症のリスクと関係していることが示されました。
子どもの溺水(おぼれ)による心停止は、呼吸が止まり低酸素状態になることが主な原因であり、胸骨圧迫に加えて「人工呼吸」を含む蘇生法(CPR)が特に重要とされています。しかし近年、成人の心停止では「胸骨圧迫のみ」の蘇生法が広く普及したことや、感染症への懸念などから、人工呼吸の実施率が低下している可能性が指摘されています。
岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)地域救急・災害医療学講座の小原隆史講師(特任)、地域二次救急・災害医療推進講座の野島剛講師(特任)、学術研究院医療開発領域(高度救命救急センター)の塚原紘平講師、学術研究院医歯薬学域(医)救命救急・災害医学の内藤宏道准教授、中尾篤典教授らの研究グループは、学術研究院医歯薬学域(医)疫学・衛生学の松本尚美助教、賴藤貴志教授らとの共同で「All-Japan Utstein Registry」(総務省消防庁)を用いて、2012年から2023年までに発生した小児の溺水による院外心停止症例を対象に、目撃者による蘇生法の変化とその転帰との関連を調査しました。
その結果、溺水による心停止では人工呼吸を伴う蘇生法が重要であるにもかかわらず、近年その実施率が低下していることが明らかになりました。また、胸骨圧迫のみの蘇生は、人工呼吸を含む蘇生と比べて、死亡や重い後遺症のリスクと関係していることが認められました。さらに、心停止が目撃されていない症例に限定した解析でも同様の傾向がみられ、溺水の場面を直接見ていない場合でも、発見した時点で人工呼吸を含む蘇生を行うことの重要性が示唆されました。
今回の研究は、子どもの溺水による心停止において人工呼吸を含む蘇生法の重要性を改めて示すものであり、一般市民に対する小児蘇生教育の充実や、人工呼吸を安全に行うためのポケットマスクなどの普及といった、社会全体での取り組みの必要性を示しています。
本研究成果は、3月10日オランダ Elsevier社の『Resuscitation』に掲載されました。
◆研究者からひとこと
| 溺水は決して珍しい出来事ではなく、誰にでも起こりうる事故です。今回の研究は、溺れた子どもを助けるために人工呼吸を含む蘇生が重要であることを改めて示しました。本研究が、子どもを安心して助けられる社会について考えるきっかけになれば幸いです。 | ![]() 小原講師 | ![]() 内藤准教授 |
■論文情報
論 文 名:Decline in Rescue Breathing and Its Impact on Outcomes in Pediatric Out-of-Hospital Cardiac Arrest Due to Drowning: A Nationwide Study, 2012–2023
掲 載 紙:Resuscitation
著 者:Takafumi Obara, Tsuyoshi Nojima, Naomi Matsumoto, Kohei Tsukahara, Takashi Hongo, Tetsuya Yumoto, Takashi Yorifuji, Atsunori Nakao, Hiromichi Naito,
D O I:10.1016/j.resuscitation.2026.111049
U R L:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S030095722600095X
<詳しい研究内容について>
溺れた子どもを救う“ひと息”~市民による蘇生で人工呼吸が減少している現状とその影響~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)地域救急・災害医療学講座
講師 小原 隆史 (電話番号)086-235-7427

