国立大学法人 岡山大学

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ヒト特有の偽遺伝子が幹細胞やがんの運命を左右する仕組みを解明

2026年03月27日

◆発表のポイント

  • ヒトの幹細胞やがんで重要な役割を果たす遺伝子「POU5F1(OCT4)」と、その鏡像のような存在である偽遺伝子「POU5F1P1(PG1)」の複雑な関係を明らかにしました。
  • PG1は、単独では親遺伝子であるOCT4のように働くことができませんが、親遺伝子の働きを抑える「ブレーキ」や、逆に働きを強める「アクセル」として機能しうることを発見しました。
  • 本研究で明らかになった「偽遺伝子による多面的な制御」は、ヒトがもつ高度な細胞制御システムを理解する重要な鍵となる可能性があります。

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の入江恭平大学院生、学術研究院医歯薬学域 人体構成学分野の小阪美津子助教、川口綾乃教授、学術研究院医歯薬学域 産科・婦人科学の増山寿教授らの研究グループは、ヒトの初期発生や幹細胞、がんで中心的な役割を果たす遺伝子「POU5F1(OCT4)」と、その鏡像のような存在である偽遺伝子「POU5F1P1(PG1)」の役割の違いと、それらの驚くべき相互作用を明らかにしました。
 これまで偽遺伝子は、進化の過程で遺伝子が偶然コピーされてできた、「機能を持たない予備の設計図」のような存在と考えられてきました。特にPG1は、親遺伝子と構造が酷似しているため、解析を妨げる「研究上の障壁」とされてきましたが、その真の機能は長年謎に包まれていました。本研究では、このPG1が、通常はncRNAとして親遺伝子の働きを抑える「ブレーキ」として機能している一方で、がん細胞などの特定の条件下でタンパク質が作られるようになると、一転して親遺伝子と結合し、その働きを強める「アクセル」へと役割を転換するという二面性を持つことを発見しました。
 本成果は、2026年2月27日付で国際学術誌「iScience」(Cell Press)にオンライン掲載されました。類人猿からヒトへの進化の過程で獲得されたこの複雑な調節機構の解明は、ヒトがどのようにして高度な細胞制御システムを手に入れたのかという問いに答えるとともに、幹細胞研究における長年の懸案を解消する画期的なものです。現時点は基礎研究段階ですが、将来のがん治療や再生医療技術を支える重要な基盤情報となることが期待されます。

◆研究者からひとこと

長年「ノイズ」だと思われていた存在の中に、ヒトをヒトたらしめる進化の鍵や、がん治療へのヒントが隠されていました。今回の研究を通じて、生命現象の面白さと奥深さを改めて実感しています。この一歩が、いつか困難な病に立ち向かう力となるよう、これからもさらに精進していきたいと思っています!
入江大学院生

■論文情報
論 文 名:Multifaceted Role of POU5F1P1 in Regulating Its Parental Stem Cell Gene, POU5F1
掲 載 誌:iScience
著  者: Kyohei Irie, Mitsuko Kosaka, Nobuhiko Mizuno, Ryo Omae, Yoshimasa Nakatani, Sandi Myat Noe Oo, Hisashi Masuyama, Ayano Kawaguchi
D O I: https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.115137
U R L: https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(26)00512-2

■研究資金
 本研究は、以下の支援を受けて実施しました。
 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(JP15K15016, JP19K09287)、特別研究員奨励費(JP23KJ1605)
 日本医療研究開発機構(AMED) 橋渡し研究戦略的推進プログラム(現:橋渡し研究プログラム)(JP16lm0103011j0003, JP17lm0203008j0001)
 文部科学省 ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム (B-cure)(JP21km0405401)
 科学技術振興機構(JST) 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(JPMJSP2126)

<詳しい研究内容について>
ヒト特有の偽遺伝子が幹細胞やがんの運命を左右する仕組みを解明


<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院医歯薬学域 人体構成学
助教 小阪美津子
(電話番号)086-235-7092

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