◆発表のポイント
- 独自装置を用いてカゴメ金属超伝導体にひずみを加える実験を実施: オリジナルのひずみ発生装置を用い、新奇な量子現象の舞台として注目される「カゴメ金属」の結晶に、精密に引張・圧縮応力(ひずみ)を加える実験を行いました。
- ひずみへの応答が異なる「2つの超伝導」を発見: 結晶を引っ張ると、これまで1つに見えていた超伝導が、「ひずみに反応しやすい特殊な超伝導(非従来型)」と「ひずみに影響されにくい標準的な超伝導(従来型)」という2段階に分裂して現れる現象を世界で初めて突き止めました。
- 引っ張りひずみによる超伝導の「増強と制御」に成功: とくに非従来型の特殊な超伝導が、引っ張る力を加えることで著しく増強されることを発見しました。これは、機械的なひずみによって特定の超伝導を自在に制御できることを示す画期的な成果です。
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科の竹内優介大学院生ら(研究当時)、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(理)の川崎慎司准教授(低温物性物理学)、鄭国慶教授(同)、中国福建師範大学のYong Zhao教授らの国際共同研究グループは、独自開発の「一軸ひずみセル」を用い、日本古来の伝統的な竹かごの編み目模様「籠目(カゴメ)」と同じ美しい原子配列を持つ「カゴメ超伝導体(CsV3Sb5)」の精密なひずみ制御実験を行いました。その結果、結晶を引っ張ることで、これまで一つに見えていた超伝導が「特殊な状態」と「標準的な状態」の2段階に分離することを発見。さらに、引っ張る力を強めるほど「特殊な超伝導」の転移温度(Tc)がはっきりと上昇し、劇的に増強されることを世界で初めて突き止めました。本研究成果は2026年8月28日、米国物理学会の速報誌「Physical Review Letters」にて公開されました。さらに本論文は、同誌において特に重要でインパクトが大きいと認められた論文にのみ与えられる「Editors' Suggestion(注目論文)」に選出されました。これは、世界中で激しい論争が続いていたカゴメ金属の超伝導の謎を紐解く、極めて重要な成果です。「ひずみ」によって電子の通る道を変え、特定の超伝導を直接操るこの画期的な手法は、銅酸化物などの「非従来型超伝導」のメカニズム解明への重要な手がかりとなり、将来の次世代量子デバイスや、より転移温度の高い革新的な超伝導材料の設計基盤となることが期待されます。
◆研究者からひとこと
| 今回、私たちの論文が『Physical Review Letters』のEditors' Suggestion(注目論文)に選出されたことは、研究室にとってこれ以上ない喜びです。この成果は決して一朝一夕に得られたものではありません。独自開発の『一軸ひずみセル』を用いた極低温での精密測定は困難の連続でしたが、歴代の修士の学生たちが3代にわたって泥臭くバトンをつなぎ、根気強く実験を続けてくれた結晶です。彼らの計り知れない努力に、心から感謝します。物性物理において「結晶ひずみ」は、伝統的な磁場や圧力に次ぐ新しいパラメータであり、超伝導の隠された性質を引き出す上で極めて有効であることを実証できました。これからも、この独自技術を武器に、学生たちとともに大胆に未知の現象に挑み続けます。ひずみ実験にご興味のある研究者の方からの共同研究の打診も、心よりお待ちしています! | ![]() 川崎准教授 |
■論文情報
論 文 名:Strain-Tuned Nodal Superconductivity in the Charge-Ordered Kagome Metal CsV3Sb5
掲 載 誌:Physical Review Letters
著 者:Yusuke Takeuchi, Akito Kobayashi, Saki Uchida, Takumi Nagao, Seigo Ogawa, Rui Zhou, Shinji Kawasaki, Fei Song, Hao Ni, Yong Zhao, and Guo-qing Zheng
D O I:https://doi.org/10.1103/mzgp-2lzb
U R L:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/mzgp-2lzb
■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)「科学研究費助成事業」(基盤A・JP19H00657, 基盤C・JP26K07015, 研究代表:鄭国慶、基盤C・JP19K03747、JP23K03323, 基盤B ・JP26K00657,研究代表:川崎慎司)と地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)(JPJS00420230010)および公益財団法人村田学術振興・教育財団「研究助成」、公益財団法人中国電力技術研究財団「試験研究-A」(研究代表:川崎慎司)、および公益財団法人岡山工学振興会「一般研究」(研究代表:鄭国慶)の支援を受けて実施しました。
<詳しい研究内容について>
ひずみで「2つの超伝導」を分離!電子を惑わすカゴメ金属~世界が注目する物質で、新たな超伝導の制御法を発見~
<お問い合わせ>
学術研究院環境生命自然科学学域(理)
准教授 川崎 慎司
(電話番号)086-251-7803
(FAX)086-251-7825(物理事務室)
