国立大学法人 岡山大学

LANGUAGE
ENGLISHCHINESE
MENU

「心肺蘇生はしないで」が救急現場で叶わない―全国調査でみえた、本人の最期の希望と救急医療のギャップ―

2026年09月07日

◆発表のポイント

  • 「心肺蘇生を望まない」と意思を示していた患者の約7割(3,308件中2,352件)が、心肺蘇生を受けながら病院へ搬送されていました。
  • 救急隊が現場で心肺蘇生を中止できる「手順」を持つ消防本部は、約半数(回答561本部中265本部、47%)にとどまりました。
  • 「手順」を持つ消防本部でも、その半数(52%)は1年間に一度も手順を使っておらず、「ルールを作ること」と「実際に使うこと」の間に大きな溝がありました。

 「人生の最期に、心肺蘇生はしないでほしい」―—。がんの終末期や老衰などで人生の最終段階を迎えた方の中には、心臓が止まった際に心肺蘇生を受けないことを、本人や家族があらかじめ希望している場合があります。ところが、実際に心停止となって119番通報されると、救急隊は原則として心肺蘇生を続けながら病院へ搬送します。救急現場で本人の意思を確認し、心肺蘇生を中止するための全国共通の仕組みがないためです。
 岡山大学医学部の田邉綾客員研究員(救命救急・災害医学)らの研究グループは、全国791の消防本部と、救急活動の医学的な質を管理するメディカルコントロール協議会を対象に、救急隊が心肺蘇生を中止できる「手順」がどこまで整備され、実際に機能しているのかを全国で初めて調査しました。その結果、手順を整備している消防本部は約半数にとどまり、整備していても半数以上の消防本部では1年間に一度も使われていませんでした。そして、心肺蘇生を望まない意思が示された事例の約7割は、心肺蘇生を続けたまま病院へ搬送されていました。
 見えてきたのは、「ルールがない」ことに加え、「ルールがあっても現場で使われていない」というもう一つの課題です。本人の「最期の願い」を社会として受け止めるためには、ルールを作るだけでなく、救急隊や医師、介護施設、家族が迷わず使える仕組みにしていくことが求められます。本研究成果は2026年9月1日、国際医学誌『Resuscitation Plus』にオンライン掲載されました。

◆研究者からひとこと

心肺蘇生は救命に有効な治療ですが、体力の落ちた高齢の方には、肋骨骨折を伴うこともある、身体への負担が大きい処置でもあります。「心肺蘇生を望まない」という意思は、その方の最期の願いです。すべての方に一律に心肺蘇生を行うのではなく、その願いを受け止め、穏やかな最期を支えることも、救急医療の大切な役割だと考えています。ご家族の「もしもののとき」をどうするか、元気なうちに話し合っておくことが、願いを叶える第一歩になります。
田邉 客員研究員

■論文情報
論 文 名:Implementation gap in prehospital termination-of-resuscitation policies for out-of-hospital cardiac arrest with do-not-attempt-cardiopulmonary-resuscitation wishes in Japan: a nationwide survey
掲 載 誌:Resuscitation Plus
著  者:Ryo Tanabe, Takashi Hongo, Tsuyoshi Nojima, Hiromichi Naito, Atsunori Nakao, Tetsuya Yumoto
D O I:https://doi.org/10.1016/j.resplu.2026.101474

■研究資金
本研究は、岡山県地域医療介護総合確保基金を活用した医療介護連携体制整備事業として支援を受けて実施しました。

<詳しい研究内容について>
「心肺蘇生はしないで」が救急現場で叶わない―全国調査でみえた、本人の最期の希望と救急医療のギャップ―


<お問い合わせ>
岡山大学医学部(救命救急・災害医学)
客員研究員 田邉 綾
(電話番号)086-235-7427

年度