東京医科大学
岡山大学
◆発表のポイント
- IPAH患者由来の肺動脈平滑筋細胞では、高い圧力によってSTC1の産生が増加した。
- 肺動脈平滑筋細胞は、機械刺激受容体PIEZO1とHIF-1αを介してSTC1を誘導し、STC1は細胞周期の進行を抑えることで細胞の異常な増殖を抑制した。
- 肺高血圧症のモデルマウスでは、STC1の欠損によって病態が悪化し、STC1の気道内投与によって病態が改善した。
- STC1の吸入療法は、肺高血圧症に対する新たな治療戦略になりえることが示された。
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)細胞生理学分野 横山詩子主任教授、呼吸器内科学分野 小神真梨子助教、岡山大学(学長:那須保友/岡山県岡山市)医学部 中村一文客員研究員(島根大学医学部内科学講座内科学第四(循環器内科)教授)らの研究グループは、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)において肺動脈にかかる高い圧力によってStanniocalcin-1(STC1)が分泌され、細胞の異常な増殖を抑えることを明らかにしました。
IPAHは肺動脈を構成する細胞が異常に増殖して血管が狭くなり肺動脈の血圧が上昇する難治性疾患です。肺へ血液を送り出すために心臓に大きな負担がかかり、病気が進行すると心不全や酸素供給の低下を引き起こします。これまで、高い肺動脈圧は病態を悪化させる要因と考えられてきましたが、肺血管の細胞が圧力を感知し、それに対してどのような防御反応を示すのかは分かっていませんでした。
研究グループは、独自に開発した加圧培養システムを用いて、IPAH患者由来の肺動脈平滑筋細胞に周期的な圧力を加え、細胞が機械刺激受容体PIEZO1を介して圧力を感知し、HIF-1αを活性化することでSTC1の産生を増加させることを発見しました。また、肺高血圧症のモデルマウスではSTC1を欠損させると肺高血圧が悪化しました。一方、STC1を気道から投与するとこれらの病態が改善しました。以上の結果から、STC1は高い圧力に応答して産生され、肺血管を病的な変化から守る防御因子として働くことが示されました。
本研究は、高い肺動脈圧が病態を悪化させるだけでなく、肺血管を守るための保護的な反応も引き起こすことを初めて示したものです。STC1の血管保護的な働きを利用することにより、肺高血圧症に対する新たな治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026 年 9 月 9 日、国際雑誌「 Circulation Research」に掲載されました。
■論文情報
論文タイトル:「Mechanosensitive Stanniocalcin-1 Suppresses Pulmonary Artery Smooth Muscle Cell Proliferation and Attenuates Experimental Pulmonary Hypertension」
著者名:Mariko Kogami, Yuko Kato, Satoko Ito, Keiko Uchida, Hana Inoue, Yuko Hidaka, Shota Tanifuji, Mayumi Yokotsuka, Yoshinari Yamamoto, Toshitaka Nagao, Shinji Abe, Roger R. Reddel, Kazufumi Nakamura, Utako Yokoyama*(*:責任著者)
掲載誌:Circulation Research
DOI:10.1161/CIRCRESAHA.125.327869
■研究資金
JSPS/JSPS KAKENHI (MK, JP23K07637), 日本新薬公募研究助成 (MK, 2024), MEXT/JSPS KAKENHI (YK, JP21K07352; KN, JP21K08108; UY, JP24K02427, JP23K18320)
<詳しい研究内容について>
特発性肺動脈性肺高血圧症において高圧力誘導分子Stanniocalcin-1が血管リモデリングを抑制~ 肺血管保護的因子による新たな治療戦略となる可能性を示唆 ~
<お問い合わせ>
<研究に関するお問い合わせ>
学校法人東京医科大学 細胞生理学分野
TEL:03-3351-6141(代表)
<取材に関するお問い合わせ>
学校法人東京医科大学 企画部 広報・社会連携推進室
TEL:03-3351-6141(代表)
大学HP:https://www.tokyo-med.ac.jp/
国立大学法人岡山大学総務部広報課
TEL:086-251-7292