ホウ素同位体で探る、微生物がつくる「小さな化学反応場」―温泉シリカが明かす、地球と火星の太古の生命の手がかり―
2026年10月09日
◆発表のポイント
- 日本など4か国の熱水(温泉)場で採取された温泉水とシリカ沈殿物を比較し、沈殿物には軽いホウ素(¹⁰B)が濃集することを発見しました。軽い¹⁰Bと重い¹¹Bの比率を元素分布や微細構造と併せて調べることで、沈殿物の形成過程と微生物の関与に迫れることを示しました。
- 微生物が分泌する粘液状の物質が、その周囲に目に見えないほど小さな「化学反応場」をつくり、軽いホウ素を選択的に取り込む物理化学モデルを提案しました。
- 太古の地球の生命活動の評価に加え、NASAのPerseveranceが採取した火星表層試料やJAXAのMMXが持ち帰る火星の衛星フォボス試料への応用も期待されます。帰還試料に火星由来のシリカ沈殿物粒子が含まれていれば、火星の過去の生命活動を探る手がかりになります。
岡山大学の中村栄三名誉教授(惑星物質研究所)らの国際共同研究チーム(日本・ニュージーランド・オーストラリア・アメリカ)は、温泉のシリカ沈殿物に、微生物の周囲で起こる化学反応の特徴が記録されることを示しました。
研究チームが提案したモデルでは、微生物が分泌する粘液状の物質が、目に見えないほど小さな「化学反応場」として働きます。その内部には温泉水全体とは異なる化学環境が生まれ、軽いホウ素がシリカに取り込まれやすくなります。この仕組みは、ホウ素同位体2)の比率と元素分布、微細構造を組み合わせ、沈殿物の形成過程と微生物の関与を読み解くための基盤になります。
研究成果は、学術誌『Geochimica et Cosmochimica Acta』へ掲載されました。太古の地球や将来の火星由来試料に残る生命の痕跡を、複数の証拠から評価する手法として期待されます。
◆研究者からひとこと
| 三朝の温泉浴槽で見られるシリカ沈殿物を出発点に、世界各地の温泉へと研究を広げました。多様な形をした小さな沈殿物に記録されたホウ素同位体の違いを、元素の分布や微生物がつくる微細構造と併せて読み解くことで、過去の温泉環境と生命活動の関わりを探る新しいバイオトレーサーの基盤を築くことができたと考えています。今後、世界の研究者によって検証が進み、新たな応用へと発展することを楽しみにしています。 | ![]() 中村名誉教授 |
■論文情報
論 文 名:Boron isotope fractionation in siliceous hot-spring sinters: Geochemical implications for biosignatures
掲 載 誌:Geochimica et Cosmochimica Acta
著 者:Eizo Nakamura, Chie Sakaguchi, Katsura Kobayashi, Nghiem Van Dao, Elena Kalinina, Hidehisa Tsuchida, Steven W. Ruff, Luke Steller, Martin Van Kranendonk, Ayrton Hamilton, Kathleen Campbell
D O I:10.1016/j.gca.2026.09.023
U R L:https://doi.org/10.1016/j.gca.2026.09.023
■研究資金
本研究は、岡山大学における「Program for Promoting the Enhancement of Research Universities」および「National University Innovation Creation Program」(文部科学省・内閣府)による資金支援を一部受けるとともに、岡山大学本部からの人的支援を受けて実施されました。また、共同研究者は、岡山大学惑星物質研究所の国際共同研究資金およびオーストラリア研究会議(Australian Research Council)の研究助成(DP180103204)による支援を受けました。
<詳しい研究内容について>
ホウ素同位体で探る、微生物がつくる「小さな化学反応場」―温泉シリカが明かす、地球と火星の太古の生命の手がかり―
<お問い合わせ>
岡山大学
名誉教授 中村栄三(論文責任著者)
(電話番号)090-8245-3527
