国立大学法人 岡山大学

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現場で使える!DNA増幅後15分間でイチゴの品種を判定!

2014年08月08日

 岡山大学大学院環境生命科学研究科ゲノム遺伝解析学分野の田原誠教授、門田有希特任助教らの研究グループが、実際の検査現場(税関検査や農作物・食品の製造、輸出入現場など)で使える農作物(イチゴ)の品種判定技術を開発しました。
 農作物の品種判定は、食の安心・安全に関わる極めて重要な検査です。しかし、これまでの検査方法はコストや時間がかかるうえ、高価な分析設備や器具も必要でした。
 本研究グループは、「STHクロマトPAS法」という今までにない新しい方法を用いた簡易判定法を世界で初めて導入。この手法を用いることで、検査の作業が極めて迅速・簡便化されます(DNA増幅後、15分間の反応、器具不要、目視での判定)。本手法は様々な作物に応用可能で、税関、食品製造、流通などの現場での広い利用が期待されます。
<業 績>
 岡山大学大学院環境生命科学研究科ゲノム遺伝解析学分野の田原誠教授、門田有希特任助教、秋竹広翔大学院生(博士前期課程)、株式会社ファスマックの高崎一人NGSグループリーダー、布藤聡代表取締役社長、東北大学大学院医工学研究科川瀬三雄教授、丹羽孝介研究員らの共同研究グループ7名は、「STHクロマトPAS法」*という新しい方法を導入。DNA増幅(PCR反応)後、わずか15分間の反応で簡単に、正しく農作物(イチゴ)の品種判定を行えることを示しました。本研究成果は、2014年6月19日にアメリカのバイオテクノロジー系オンライン科学雑誌『Journal of Biotechnology』に掲載されました。
 これまで開発されてきた農作物の品種判定法は、高価な分析設備や機器が必要でした(図1)。しかも、そのDNA検査は数時間かかり、とても実際の現場で使えるようなものではありませんでした(図1)。そのうえ、いくつかの品種が混ざった加工食品(ジャム、ジュース、味噌など)の場合には、品種判定が不可能という致命的欠点がありました。
 今回、田原教授らが開発した品種判定法は、検査方法の問題点を克服しました。「STHクロマトPAS法」という今までにない新しいツールを使ったDNA検査は、増幅したDNAについて、検査時間がわずか15分間の反応で終わるという劇的な作業短縮を実現。この検査は、マッチ棒ほどの大きさのメンブレンスティックを反応液に浸し、結果を肉眼で確認するだけという極めて簡易なものです(図1)。つまり、どこでも、誰でも簡単に検査ができる可能性を示します。
 なお、試験的に国産のイチゴ品種(「あまおう」、「女峰」など)8品種を対象に検査を実施しましたが、すべての品種について簡便、正確に特定することができました。



<見込まれる成果>
 農作物の品種判定は、私たちの食の安心・安全に関わる極めて大切な検査です。特に、日本で育成された品種は、見た目も味も非常に良く、高級品のブランドを有し、世界各地へ輸出されます。しかし、これら日本品種の盗用や偽装表示など、日本のブランド力が海外で悪用される事態が発生しています。また、許可なく海外で生産された品種の産物が日本に輸入されることも懸念されます。このような状況のため、品種を守るための取り組みは極めて重要であり、その分野の研究は活発化していますが、実際に現場で使える技術は未だに確立されていませんでした。
 今回開発した手法を使えば、税関検査や、食品・農作物の輸出入、製造現場といった場所での迅速で正確な検査が可能になると考えられます。それにより、諸外国から不正な品種産物の輸入を防ぐ、また日本の大切な品種の権利を守りながら、それらを海外へ積極的に発信することにもつながります。これからも日本の農業の発展、また食の安心・安全を願い、本当に現場で使える技術の開発を目指して、積極的により良い研究に取り組んでいきたいと考えています。

<補 足>
 STHクロマトPAS法:日本ガイシ株式会社(主担当:川瀬三雄氏、現在、東北大学大学院医学工学研究科教授)により開発された新しいDNA検出技術のこと。“タグ配列”という特殊な配列を結合させたDNA産物、また予めそのタグ配列と結合する配列を固定させたメンブレンスティックを用いる。このメンブレンスティックをDNA産物が含まれる液に浸すと、標的のDNA産物がメンブレン上を移動してきた時のみ、タグ配列とメンブレン上の配列でハイブリ反応が起こる。その結果、DNA産物の色素がメンブレン上に浮かび上がるため、肉眼でのシグナル確認が可能となる(図2)。


 本研究は、農林水産省の平成24~26年度「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Monden Y, Takasaki K, Futo S, Niwa K, Kawase M, Akitake H, Tahara M. A rapid and enhanced DNA detection method for crop cultivar discrimination: Journal of Biotechnology, 2014, (doi: 10.1016/j.jbiotec.2014.06.013)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院環境生命科学研究科
ゲノム遺伝解析学分野 教授
(氏名)田原 誠
(電話番号)086-251-8312
(FAX番号)086-251-8388

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