国立大学法人 岡山大学

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日中韓の大学生 「生命の選別」への意識に大きな差

2014年10月28日

 本学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)生命倫理学分野の粟屋剛教授、于麗玲客員研究員らの国際共同研究グループは、日本・中国・韓国の大学生を対象に、出産・育児に対して「子どもの資質をどの程度重視するか」に関する意識調査を実施しました。その結果、望む資質の子どもを得る手段、出生・着床前診断、妊娠・育児期の環境などの「生命の選別」に関する意識に、国によって大きな差があることがわかりました。
 生殖関連技術(超音波検査、出生前・着床前診断等)の発達により、胎児の生まれつきの病気、障がいを出産前(着床前診断については着床以前)に知ることが可能になっています。診断結果によっては、中絶するという選択がなされることもあります。
 本研究成果は、「生命の選別」という現代の医療技術の発達が社会に突きつけた新たな問題を議論していくための基礎資料として、大きく役立つことが期待されます。
<業 績>
 本学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)生命倫理学分野の粟屋剛教授、于麗玲客員研究員らの国際共同研究グループ※は質問用紙を用いて、日本 計616人(男性223人・女性383人・性別不明10人)、中国 計521人(男性168人・女性353人)、韓国 計531人(男性154人・女性372人・性別不明5人)の大学生を対象に、出産・育児に際して「子どもの資質をどの程度重視するか」に関する意識調査を行いました。
 三カ国間の比較では、中国と韓国の回答者は、日本の回答者と比較してより高い優生的傾向を一貫して示しました。本研究成果は、2014年8月に医学系総合科学雑誌の『Acta Medica Okayama』に掲載されました。

<背 景>
 人はさまざまな資質(生まれつきの病気、障がい、知能、体格等)を持ちますが、資質の違いによって特定の人々を排除しようとしたり、特定の人々の出生を促そうとしたりする考え方を「優生思想」といいます。歴史的には、ナチス・ドイツによる障がい者迫害等が優生思想の典型的事例として知られており、日本では多くの場合否定的に評価されてきました。
 近年の生殖関連技術の発達により、人がもつさまざまな資質のうち、生まれつきの病気、障がいを胎児(あるいは受精卵)の段階で知ることが可能になりました。このような技術的状況は中国や韓国でもほぼ同様ですが、中国では国家の政策として、障がい者の出生を抑制し、より健康に育てることを奨励する政策が1990年代から進められました。これは「優生優育」(より良く産んで、より良く育てる)政策と呼ばれています。
 研究グループは、「生命の選別」に対する肯定的な見方を「優生的傾向」と呼ぶことにしました。

※国際共同研究グループ
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)生命倫理学分野 粟屋 剛 教授
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)生命倫理学分野 于 麗玲 客員研究員
日本学術振興会 加藤 穣 特別研究員(現・石川県立看護大学看護学部准教授)
名古屋経済大学法学部 宍戸圭介 専任講師(現・准教授)
新見公立大学看護学部 土井英子 教授
韓国・京畿大学社会学部 陣 幸美 教授
中国・中央民族大学大学院中国少数民族言語学研究科 王 金剛 教授
岡山大学医学部 池澤淳子 客員研究員






<見込まれる成果>
 生殖医療技術を前提とした「生命の選別」という新たな優生思想に対しては、これまで哲学・倫理学的考察や比較法的考察が行われてきました。最近ではそれに加えて、実証的な調査研究も行われるようになってきました。しかしながら、これまでの実証的研究はいずれも小規模であり、また、多くは一国内の調査に留まるものでした。
 本研究は、今後その多くが出産・育児を行うと考えられる若年層が出産・育児に際して「子どもの資質をどの程度重視するか」を三カ国で調査したものです。(主に個人の選択による)「生命の選別」という現代の医療技術の発達が社会に突きつけた新たな優生思想とも呼ばれる問題を議論していくための基礎資料として大きく役立つことが期待されます。

<補 足>
 母親が高齢になると染色体の分配が正常に行われない確率が高くなり、胎児がダウン症等の染色体異常をもつ確率も高くなります。母親の血液の中には胎児由来の染色体の断片が流れており、これを検出することで胎児の染色体異常を調べることができる新型出生前診断(NIPT)が、日本では2013年4月より35歳以上の妊婦等を対象に臨床研究として行われています。臨床研究開始から1年が経過し、「陽性」(異常あり)と診断された場合に、母親が中絶を選択することが多いという報告・報道もなされています。こうした事例は、現代における優生思想であると指摘されることもあります。障がいの有無等による「生命の選別」の問題は、母親となる当該の女性やカップルのみならず、日本社会ひいては世界に突きつけられた困難な問題でもあると思われます。

発表論文はこちらからご確認いただけます
発表論文:Yu L, Kato Y, Shishido K, Doi H, Jin Hm, Wang Jg, Ikezawa J, Awaya T. A questionnaire study on attitudes toward birth and child-rearing of university students in Japan, China, and South Korea. Acta Med Okayama. 2014;68(4):207-18.
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)
生命倫理学分野 教授 粟屋 剛
(電話番号)086-235-6742
(URL)http://homepage1.nifty.com/awaya/

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