国立大学法人 岡山大学

LANGUAGE
ENGLISHCHINESE
MENU

成体腎臓からの幹細胞を用いて試験管内で腎臓構造の再現に世界で初めて成功

2014年11月25日

 岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科の喜多村真治講師、杏林大学医学部薬理学教室櫻井裕之教授、槇野博史病院長らの研究グループは、成体腎臓から取り出した幹細胞を用いて、試験管内での腎臓構造の最小構成単位であるネフロン1)の再現に世界で初めて成功しました。本研究成果は、2014年11月24日(米国東部時間午前7時)に米国の科学雑誌『STEM CELLS』に掲載されました。
 現在、慢性腎臓病患者は日本国内に8人に1人いると言われ、慢性腎不全の透析患者も増加しています。本研究成果によって、成体腎臓幹細胞を使用した腎臓構造再構築が実現すれば、再生医療のみならず、オーダーメイド治療、創薬や動物実験の代替法まで幅広い応用が期待されます。
<業 績>
岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科の喜多村真治講師、槇野博史病院長、杏林大学医学部薬理学教室櫻井裕之教授らの研究グループは、大人のラットから採取した腎臓幹細胞を使用してECMゲル2)で満たしたトランスウェル3)内で三次元培養を行い、三次元構造を持った腎臓構造体の作製に成功しました(図1、2:nephrin, synaptopodin~糸球体のみに発現する蛋白、DAPI~細胞核)。腎臓構造体は本物の腎臓の構造の最小構成単位であるネフロン構造を有しており、機能も一部確認されました。
腎臓幹細胞はiPS細胞4)、ES細胞5)と同じく多分化能を保持していますが、他臓器への分化の力はiPS細胞、ES細胞ほど強くなく、その臓器独自の分化を比較的保持していると考えられています。


<見込まれる成果>
幹細胞からの組織・臓器作製は長年の夢であり、網膜や脳の一部、肝臓の一部を作製したとの報告はありますが、実存の臓器構造に酷似した組織レベルの再現は世界で初めてです。大人といった成熟個体から採取可能な細胞から腎臓構造体を作製できれば、創薬やオーダーメイド治療、動物愛護の観点から動物実験に変わる動物実験代替の臓器モデルになり得る可能性があります。
幹細胞から腎臓構造再構築のメカニズムを詳細に検討することにより、腎不全の新たな治療や移植可能な臓器作製が期待されます。

<補 足>
本研究は、独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進事業(H23~25)、岡山医学振興財団助成金、経済産業省、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費若手B(H23~H25)、オーガンテクノロジーズ株式会社の助成を受け実施。日本再生医療学会 Young Investigator award 2012を受賞しました。
腎毒性評価の研究として経済産業省の助成の枠組みで、産総研、鳥取大学との共同研究を行っております。

取得特許関連情報についてはこちら

発表論文:Single adult kidney stem/progenitor cells reconstitute 3-dimensional nephron structures in vitro.  Shinji Kitamura, Hiroyuki Sakurai, Hirofumi Makino. STEM CELLS ,2014,doi: 10.1002/stem.1891
発表論文はこちらからご確認いただけます

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学病院 腎臓・糖尿病・内分泌内科
講師 喜多村 真治
(電話番号)086-235-7235
(FAX番号)086-222-5214

<用語解説>
1)ネフロン
腎臓の基本的な機能単位であり、腎小体とそれに続く1本の尿細管のこと。 人間の場合は左右の腎臓合わせて2百万個ほど存在し、各ネフロンで濾過、再吸収、分泌、濃縮が行われ、原尿が作られていく。

2)ECMゲル
extra cellular matrix (細胞外基質)ゲル。細胞を支える動物の結合組織を構成するタンパク質でつくられたゲル状の物質。

3)トランスウェル
 細胞を培養するための皿のこと。

4)iPS細胞
 人間の皮膚などの体細胞に、極少数の因子を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化します。この細胞を人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell:iPS細胞)と呼びます。

5)ES細胞
 動物の発生初期段階である胚盤胞期の胚の一部に属する内部細胞塊より作られる幹細胞株のこと。培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ。

年度