国立大学法人 岡山大学

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尿酸の新たな輸送タンパク質を発見

2015年05月21日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の森山芳則教授、表弘志准教授、外川奈津子大学院生、自然生命科学研究支援センターの樹下(じゅげ)成信助教(JST さきがけ)らの研究グループは、本学が開発した膜タンパク質の生産システムを用いて尿酸※1の新規排出タンパク質を発見。各臓器における発現箇所を明らかにしました。本研究成果は2015年5月13 日に『American Journal of physiology - Cell Physiology』で公開されました。
 尿酸は痛風や高尿酸血症の原因因子として知られていますが、神経保護作用がある事も報告されています。今回、尿酸の新規排出タンパク質が、体外へ尿酸を排出する腎臓のような臓器以外にも、脳、胎盤、甲状腺等さまざまな組織に発現することを確認しました。  
 本研究成果によって、尿酸の脳での詳細な働きを明らかにすることができれば、パーキンソン病等の神経変性疾患の新たな治療法開発へつながるものと期待されます。
<業 績>
 本学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の森山教授らの研究グループは、機能が不明であった輸送タンパク質NPT3※2の遺伝子が、尿酸やアニオン性薬物※3の排出タンパク質であることを世界で初めて突き止めました。また、NPT3は主に尿酸排出の行われている腎臓だけでなく、脳や胎盤、甲状腺、肺気管上皮、肝臓等様々な臓器にも発現している事がわかりました。
 本研究グループは、本学が開発した膜タンパク質の生産システムに輸送タンパク質NPT3を導入。NPT3を大腸菌に大量に作らせ、精製し、その機能を測定しました。特に、脳ではアストロサイトという細胞にNPT3が発現しており、尿酸の脳での詳細な働きを明らかにする重要な手がかりが得られました。

<背 景>
 痛風や高尿酸血症の原因因子として知られている尿酸は、神経組織では神経変性保護作用がある事が知られています。また、尿酸値の高い人はドパミン神経の変性が原因であるとされているパーキンソン病になりにくいという疫学的データもあります。しかし、これまで尿酸排泄に関わる研究は腎臓や肝臓、小腸といった尿酸の体外排泄経路の研究に重きが置かれ、尿酸の体内循環や各組織での排出に関する研究はほとんど進んでいませんでした。



<見込まれる成果>
輸送タンパク質NPT3は、これまで発見されていた尿酸輸送タンパク質とは異なる組織に発現していました。本研究成果は、尿酸の体内循環や各組織での排出機能を調べるための足がかりとなる研究です。
今後、尿酸の脳での詳細な働きを明らかにすることができれば、いまだその治療法が確立していないパーキンソン病等の神経変性疾患の新たな治療法開発へつながるものと期待されます。

<原論文情報>
(著者)Natsuko Togawa, Narinobu Juge, Takaaki Miyaji, Miki Hiasa, Hiroshi Omote and Yoshinori Moriyama(題名)“Wide expression of type I Na+/phosphate cotransporter 3 (NPT3/SLC17A2), a membrane potential-driven anion transporter”(誌名)American Journal of physiology cell physiology,2015;in press.

<補足>
※1 尿酸
 プリン化合物の最終産物である尿酸は、体内において強力な抗酸化物質として神経保護作用等に働いています。一方、結晶化しやすい性質があることから血中尿酸値が上昇することによって痛風を発症する原因物質となることが知られています。従って、体内において血中尿酸値は厳密にコントロールされています。

※2 NPT3
 NPT3という輸送タンパク質は、尿酸や薬物を体外に排出するNPT輸送タンパク質群の中で唯一その機能がわかっていなかった輸送体です。これまで、他のNPT輸送体群は小腸や腎臓で尿酸や薬物の排出体として機能している事は明らかにされていました。

※3 アニオン性薬物
 アニオン性薬物とは、水に溶かしたときに負電荷を帯びる薬物の総称です。本研究においては、NPT3はアスピリン、サリチル酸、イブプロフェンといった親水性NSAIDsを輸送することを明らかにしています。

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学自然生命科学研究支援センター
助教 樹下 成信
(電話番号)086-251-7262

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