国立大学法人 岡山大学

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小児眼科疾患(水晶体亜脱臼と眼表面皮様嚢腫)の手術時期の目安を発表

2015年10月13日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野の松尾俊彦准教授らは、小児のまれな先天性の眼疾患である水晶体亜脱臼と眼表面皮様嚢腫(デルモイド)に対する手術時期の目安について報告をまとめました。本研究成果は8月28日および9月21日、アメリカのオンライン科学雑誌「Springer Plus」に掲載されました。
 岡山大学病院では、松尾准教授らが15年来、水晶体亜脱臼やデルモイドなどの手術を担当しています。今までの報告では手術時期についての明確な基準が示されてなく、また、手術する方がよいか経過観察の方がよいかを論じた報告もありませんでした。本報告によって、患者家族に情報を提供することができ、今後の眼科医療に大きく貢献することが期待されます。
<業 績>
 岡山大学の松尾俊彦准教授らは、小児のまれな先天性の眼疾患である水晶体亜脱臼と眼表面皮様嚢腫(デルモイド)に対する手術時期の目安を2つの論文にまとめました。
1.先天性水晶体亜脱臼
 先天性水晶体亜脱臼は、生まれつき眼の中の水晶体(レンズ)がずれている疾患(図1)で、通常は両眼に見られます。マルファン症候群などに合併する場合と単独に起こる場合があり、遺伝性も確認されています。視覚に関する脳の発達は3歳ぐらいまでに完成しますが、先天性水晶体亜脱臼で水晶体のずれが大きいと、眼底にきれいな像が映らず、脳の神経回路が未発達のまま留まる「弱視」になります。
【手術時期の目安】
 水晶体のずれが軽い場合には、大きな影響はありません。子供の眼の屈折状態(近視、遠視、乱視の程度)を測り、可能なら視力検査を行い、眼圧も測って、手術するべきかどうか、経過観察で大丈夫か、手術するならいつがよいかを、家族と相談しながら判断します。今回、近くの視力が0.4ある場合は、手術しなくてもよいことが分かりました。
2. 眼表面皮様嚢腫(デルモイド)
 眼表面デルモイドには大きく分けて2種類あります(図2)。角膜(黒目)と結膜(白目)の境目にできる角膜輪部デルモイドと、結膜の奥の方にできる結膜円蓋部デルモイドです。同じ側の副耳を併発することもあります。
角膜の周辺や結膜の奥にデルモイドはできるので、直接、視力には影響はありません。しかし、角膜のそばにできるので、大き目のデルモイドの場合には、角膜の湾曲がいびつになる角膜乱視が生じます。これを放置すると眼底にきれいな像が写らなくなり、「弱視」になります。
【手術時期の目安】
 屈折検査を行って、乱視が強い場合には眼鏡をかけて弱視を予防し、視力の発達を促すことが必要です。手術するかどうかは、子供の感じ方、両親の考えによって決めます。大き目のデルモイドは手術する場合が多く、小さめのデルモイドは経過を診ていることが多いです。大切なことは手術することではなく、弱視にならないように診ていくことです。

<背 景>
 視力は生まれてからすぐに大人と同じように見えているのではなく、きれいな像が眼球の奥(眼底)の網膜に映り、それが脳に伝わり、脳の神経回路が発達して良好な視力が出てきます。小児では眼球が成長中で、視力も発達中です。この視力の発達がなんらかの理由によって妨げられると、「弱視」になります。先天性水晶体亜脱臼も眼表面デルモイドも、その程度はさまざまで子供によって視力への影響は変わります。視力が育っていく過程で、手術した方がよいのか、それとも経過観察をした方がよいのかという判断を迫られます。今回、この判断の目安について明らかにしました。
発達中の小児の眼を扱う先天性水晶体亜脱臼に対する手術は、大人の手術と比べて難度が高くなります。岡山大学病院では、2005年に最新の硝子体手術機器を導入し、その機器を水晶体亜脱臼の手術に応用し、小さな切開創で行う手術方法を実施してきました。手術を安全に行うために、細い器具(25ゲージの太さの針:直径が約0.4mm)を使用しています。

<論文情報>
発表論文1: Matsuo T. How far is observation allowed in patients with ectopia lentis? Springer Plus, 2015, 4(1), 461 (DOI 10.1186/s40064-015-1239-5)発表論文2: Matsuo T. Clinical decision upon resection or observation of ocular surface dermoid lesions with the visual axis unaffected in pediatric patients. Springer Plus, 2015, 4(1), 534 (D: 10.1186/s40064-015-1326-7)
発表論文はこちらからご確認いただけます。
 発表論文1: http://www.springerplus.com/content/4/1/461
 発表論文2: http://www.springerplus.com/content/4/1/534

参考論文: 小児眼科領域で以前に報告した先天性白内障の手術に関する論文
Matsuo T. Intraocular lens implantation in unilateral congenital cataract with minimal levels of persistent fetal vasculature in the first 18 months of life. Springer Plus, 2014, 3, 361; (DOI: 10.1186/2193-1801-3-361)

参考論文はこちらからご確認いただけます。
http://www.springerplus.com/content/3/1/361


図1.水晶体亜脱臼
   上段A(右眼)とB(左眼)→ 水晶体のずれが大きく手術した
   下段C(右眼)とD(左眼)→ 水晶体のずれが軽く視力もよいので経過を診ている


図2.角膜輪部デルモイド(皮様嚢腫):大き目のデルモイド(左)と小さ目のデルモイド(左)

<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野
准教授 松尾 俊彦
(電話番号)086-235-7297
(FAX番号)086-222-5059
//www.okayama-u.ac.jp/user/opth/index.htm

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