国立大学法人 岡山大学

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イネのマンガン輸送体を発見

2015年11月10日

 岡山大学資源植物科学研究所の馬建鋒教授と高知大学教育研究部総合科学系生命環境医学部門の上野大勢准教授らの共同研究グループは、イネの生育に欠かせないマンガンの吸収に必要な排出型輸送体タンパク質OsMTP9を世界で初めて突き止めました。本研究成果は2015年11月9日(英国時間16時)、「Nature Plants」に公開されます。
 マンガンは植物の光合成などに欠かせない必須金属ですが、吸収機構についてはこれまで一部分しか解明されていませんでした。本研究ではイネの根の細胞から中心柱に向かってマンガンを送り出すために必要な輸送体を突き止めました。本研究成果は、マンガン吸収能力を高め、生育が促進される作物の開発につながると期待されます。
<業 績>
 岡山大学、高知大学の共同研究グループは、イネのOsMTP9 輸送体タンパク質がマンガンの吸収に関与していることを明らかにしました。
マンガンは植物の生育に欠かせない必須金属で、特に光合成に必要です。植物に必要なマンガンは、根によって土壌から吸収する必要があります。これまでに本研究グループは、土壌側から根の細胞内に取り込むために必要な輸送体OsNramp5を見つけています。しかし、地上部までマンガンを送り届けるためにはOsNramp5によって細胞内に取り込まれたマンガンを導管のある中心柱に向かって再び細胞の外に排出する必要がありますが、その輸送体は長い間未解明でした。
 OsMTP9はOsNramp5 と同じく根の外皮細胞と内皮細胞に存在しますが、OsNramp5は根の外に向かって、OsMTP9は根の内側に向かって偏在しています。この遺伝子を破壊すると、マンガンの根への吸収と地上部への転流が大幅に減少し、その結果、イネの収量も低下しました。


<見込まれる成果>
 本研究により、イネのマンガン吸収に必要な輸送システムが明らかになりました。この仕組みを応用し、よりマンガンの吸収の能力を高めることで、マンガンの少ない土壌でも生育できる作物の開発につながると期待されます。

<背 景>
 マンガンは主に植物の光合成において、水を分解して酸素を発生させる過程に必要な元素です。マンガンは土壌の水分状態やpHによって植物が利用できる効率が大きく変化します。例えば、降水量の少ないアルカリ性の土壌ではマンガンは酸化され、植物はこれを利用することができません。一方、水捌けが悪く酸性寄りの土壌ではマンガンが溶け出し、植物にマンガン過剰害が表れます。本研究で発見されたイネの遺伝子OsMTP9を品種改良に用いれば、マンガンの過不足に適応した農業が可能になります。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「植物環境突破力」の助成を受け実施しました。

<論文情報>論文名:A polarly localized transporter for efficient manganese uptake in rice著 者:Daisei Ueno, Akimasa Sasaki, Naoki Yamaji, Takaaki Miyaji, Yumi Fujii, Yuma Takemoto, Sawako Moriyama, Jing Che, Yoshinori Moriyama, Kozo Iwasaki and Jian Feng Ma発表誌:Nature PlantsDOI:10.1038/nplants.2015.170
発表論文はこちらからご確認いただけます

<用語解説>
1)マンガン
 植物の微量必須元素の一つ。主に植物の光合成における酸素発生に関わる。

2)MTP
 植物の膜タンパク質の一種で、主に二価の重金属イオンの排出に関わる。マンガンや亜鉛などの耐性に関与することから、Metal Tolerance Proteinと名付けられた。

3)輸送体
 細胞膜や細胞小器官の膜上にあるタンパク質。膜の内外にそれぞれ決まった種類の物質を輸送する。

4)外皮
 植物の根の外側から2番目にある。皮層と呼ばれる細胞層の一番外側の一層で、土壌からのミネラルの吸収を担う。イネでは外皮より内側の皮層が通気組織となっているため、根の中心に運ぶためには外皮において吸収されたミネラルは通気組織に一旦排出される必要がある。

5)内皮
 皮層の一番内側に位置する細胞層。内皮の内側にある導管や篩管へ輸送するミネラルの量の調節に関わる。


<お問い合わせ>
 岡山大学資源植物科学研究所 教授 馬 建鋒
 (電話番号) 086-434-1209

 高知大学教育研究部総合科学系生命環境医学部門 准教授 上野 大勢

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