国立大学法人 岡山大学

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国内初の慢性肝腎不全患者に対する肝腎同時移植の成功例

2013年05月30日

 岡山大学病院肝・胆・膵外科の八木孝仁教授の肝移植チームは2012年9月1日、国内で初めて脳死体からの臓器提供による肝腎同時移植を試み、成功しました。患者は半年を経過して肝不全・腎不全からみごとに回復し、元気に日常生活を送っており、本手術の臨床的成果は2013年4月29日の『Hepatology Research』電子版で公開されました。
 2010年の脳死臓器移植法改正の後、脳死体からの臓器提供が進む中で、多臓器提供が可能となりました。同一レシピエントへの複数臓器の同時移植は1例の心肺同時移植をのぞいては従来膵腎同時移植がほとんどであり、肝腎同時移植も2回(生体1例、脳死1例)試みられていますが、いずれも早期に死亡していました。本症例の成功は、わが国の多臓器移植への道を開く先駆けとなるものと期待されています。
<業 績>
 心臓、肺、肝臓などの長期代替治療のない、いわゆる「必須臓器」の移植で、これら必須臓器以外の臓器不全を合併した場合、多臓器移植が必要となります。わが国の肝移植については脳死臓器移植法改正までは生体肝移植が主流であったため、ドナーの身体的、精神的負担を考えると、同一生体ドナーからの多臓器摘出は現実的ではありませんでした。レシピエントは弘前大学病院で12年前に生体肝移植を受けた患者で、肝不全・腎不全に陥り血漿交換と透析を繰り返す極めて重篤な状態となり当院の登録患者となりました。紹介先施設での46日間の懸命な救命医療ののち、8月31日肝臓と腎臓の同時提供をうけ、9月1日に当院での肝腎同時移植の実施となりました。弘前大学、防衛省との密接な連携とコーディネーションは、瀕死のレシピエントを900km安全に空路で移送することを可能にし、また、院内にあっては肝・胆・膵外科はもとより麻酔科、消化器内科、泌尿器科などの優れた連携能力と医療技術の高さが16時間半におよぶ移植手術を成就させ、患者を救命する原動力となりました。
<見込まれる成果>
 肝腎同時移植は、先天性肝腎嚢胞や原発性シュウ酸血症など特殊な病気の治療として捉えられがちです。たしかに頻度的に少ないこれらの肝臓と腎臓が同時に冒されてしまう病気の治療法としても有力ですが、頻度的に多いのは様々な原因で発生する肝不全によって結果的にもたらされる腎障害です。肝不全に伴う腎障害は、肝腎症候群とよばれ移植手術の生存率を低下させる大きな要因の一つです。腎不全が完成しても短期であれば回復するのですが、本格的に維持透析に入ると回復は見込めません。このような患者さんには肝腎同時移植が必要なのですが脳死移植法改正までは困難な治療法でした。もちろん肝腎同時移植の手術侵襲(手術によって体に与えられるダメージ)は肝移植単独、腎移植単独に比較して明らかに大きいのですが、肝移植後の腎移植あるいは腎移植後の肝移植に比較して、レシピエントの生存率、移植した肝臓の働きともに良好であることが示されています。肝臓を含む多臓器移植においては、肝臓そのものが免疫抑制的に働き、肝臓以外の臓器の拒絶を抑える働きがあることがわかっており、肝腎同時移植はレシピエントにとって免疫学的にはむしろ有利に働きます。
<補 足>
 今後の課題としては、脳死提供の増加に伴い肝腎同時移植の頻度も増えていくことが予想されますが、適応患者さんが今回のような維持透析の患者さんばかりとは限りません。透析直前の慢性腎障害患者さんで肝移植をすれば、まず間違いなく透析導入となると予想されるレシピエントもおられます。慢性腎不全で脳死腎移植を待っておられる患者さんの移植機会を減らすことのないように、肝移植単独でいくべきかそれとも肝腎同時移植を選択すべきかその判断基準を確立しておく必要性を認識する上でも契機となる報告です。

発表論文はこちらからご確認いただけます

報道発表資料はこちをご覧ください

<お問い合わせ>
 岡山大学病院肝胆膵外科 教授
八木孝仁
TEL:086-235-7257
FAX:086-221-8775

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