国立大学法人 岡山大学

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半導体ダイヤモンドヒーターによる超高温発生 半導体ダイヤモンドヒーターを開発し、超高圧下で約4000Kの超高温発生に成功

2017年10月12日

 岡山大学惑星物質研究所(惑星研)の米田明准教授、謝龍剣大学院生(JSPS特別研究員)、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)入舩徹男教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の肥後祐司研究員らの研究グループは、半導体ダイヤモンドヒーターを用いた超高圧下での高温発生で、従来より1000 K以上も高い約4000 Kの温度発生に成功しました。
 本研究成果は2017年9月22日、米国物理学協会が刊行する科学誌『Review Scientific Instruments』に掲載されました。
 地球深部は高温高圧の世界です。外核とマントルの境界(CMB)である深さ2900 kmでは圧力136 GPa、温度4000 Kと推定されています。岡山大学惑星研の高圧グループは、120 GPaの圧力発生まで成功し、目標の136 GPaに肉薄してきています。一方で温度発生はヒーター材料の制約から約2500 Kが限界でした。この壁を突破する新型ヒーターとして半導体ダイヤモンドが最適であるという確信から、2011年頃より研究を開始しました。愛媛大GRCとSPring-8の協力を得て、半導体ダイヤモンドヒーターの優秀性が実験的に実証できました。
 半導体ダイヤモンドは原子番号の小さい炭素とホウ素で構成されておりX線透過性が高いという特長があります。その特長を生かして、落球法によるケイ酸塩メルトの粘性率測定5) で既に成果を上げています。また、100 GPa領域での半導体ダイヤモンドヒーターによる超高温発生プロジェクトも開始しています。 
 図1に示したD”層は地球内部における最重要境界層です。そこではペロブスカイト構造のブリッジマナイトがポストペロブスカイト構造に高圧相転移することが知られています(図8参照)。我々の次の目標は半導体ダイヤモンドヒータを用いてD”層の物質科学的研究を展開することです。
<本研究成果のポイント>●ダイヤモンドにホウ素(B:ボロン)を添加すると半導体ダイヤモンドになる。半導体ダイヤモンドヒーターで約4000 Kの超高温発生に成功。●半導体ダイヤモンドをヒメダイヤ乳鉢(愛媛大GRC)でパウダー状に粉砕した。半導体ダイヤモンドの難加工性問題をクリア。●半導体ダイヤモンドの圧力発生に対する影響を、大型放射光施設SPring-8(BL04B1)での“その場観察”で確認した。常温でおこる圧力発生効率の低下が温度上昇に伴い解消していくことを確認した。1300 K以上では圧力発生効率への悪影響は無い。●半導体ダイヤモンドの特長の一つは高いX線透過性。すでにSPring-8放射光施設の強力X線で落球法によるケイ酸塩メルトの粘性率測定を実施している。
図1 地球内部温度分布の概略(Marchi et al., 2014に加筆)。マントルとコアの境界(CMB)での温度は約3000K、またそこでのケイ酸塩鉱物の融点(Solidus)は約4000Kと見積もられている。CMBの直上にD”層とよばれる、極めて活動的な領域がある。
図2 ダイヤモンドのバンド構造の概要。価電子帯(VB)と伝導帯(CB)のエネルギーギャップEgは5.45eVと非常に大きいのでダイヤモンドは絶縁体である。ホウ素をドープするとアクセプタ準位が形成される。価電子帯とのエネルギーギャップは0.35eVであり、数千Kの温度では半導体となりヒーターに適合する電気伝導性を持つようになる。
図3 炭素の相平衡図(Organov et al., 2013)。常温常圧ではグラファイトが安定相、1500 Kでは5 GPa以上の圧力でダイヤモンドが安定相になることなどが分かる。ダイヤモンドの融点は約5000 Kと推定されている。
図4 愛媛大学GRC所有のヒメダイヤ乳鉢と乳棒。世界最硬の乳鉢・乳棒である。
図5 SPring-8、BL04B1の装置配置図と2台の高圧プレスの写真。2台のプレスを交互に使えるので効率的に研究を進めることができる。SPring-8ホームページより転載。
図6 約4000 K発生実験からの回収試料の断面。(a)で半導体ダイヤモンド(BDD)や電極材(TiC)が融けていないことが分かる。(c)は(a)中のボックス部の拡大である。W/Re alloy は融けた熱電対の残滓である。(b),(d)はヒーターの内外に置かれたMgOのテクスチャーである。(b)に比べてヒーター中心部の(d)の粒径が細かい。MgOの高温細粒化は興味深い現象であり、今後も分析を継続する。
図7 落球法粘性率測定法の概要。試料中に置かれた金属球(写真中の黒丸)は試料が融けると落下を始める。20ms以降で落下速度が一定になっている。落下速度から粘性率が求まる。X線透過性の高い半導体ダイヤモンドヒーターは本実験に適している。本測定はSPring-8、BL04B1で行った。
図8 焼結ダイヤモンドアンビルによる圧力温度発生の現状を黄色の領域で示した。発生圧力が120 GPa(黒破線)まで到達しているが、温度については地温勾配(geotherm)までギャップがある。Pv、Ppvはペロブスカイト構造とポストペロブスカイト構造の略称である。今後の目標を赤矢印で示した。すなわち、半導体ダイヤモンドヒーターを組み込むことにより、60-120 GPaの圧力領域で地温勾配までの温度発生を可能にする。



<発表論文情報>
タイトル: Synthesis of boron-doped diamond and its application as a heating material in a multi-anvil high-pressure apparatus (ボロンをドープした半導体ダイヤモンドの合成とマルチアンビル装置におけるヒーター材への応用)
著  者:謝龍剣、米田明,芳野極、山崎大輔、辻野典秀、肥後祐司、丹下慶範、
入舩徹男、新名亨、伊藤英司
掲 載 誌: Review Scientific Instruments



<詳しい研究内容について>
半導体ダイヤモンドヒーターによる超高温発生///半導体ダイヤモンドヒーターを開発し、超高圧下で約4000Kの超高温発生に成功


<本件お問い合わせ>
惑星物質研究所
准教授 米田 明
(電話番号)0858-43-3762
(FAX番号)0858-43-2184

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