国立大学法人 岡山大学

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強光ストレス下での光合成光化学反応制御の新機構

2013年06月27日

 植物,特に陸上植物は,強光,高温,低温,乾燥など様々な環境ストレスにさらされています。このようなストレスは特に光合成に大きな影響を与えます。今回,岡山大学大学院自然科学研究科の山本泰教授らの研究グループは,植物の光合成の光化学反応系を強光から守る上で,葉緑体チラコイド膜や膜上の光化学系複合体の動きが極めて重要であることを明らかにしました。また,強光をどうしても避けられない場合,光化学反応系周辺では脂質過酸化やタンパク質の凝集が起きることを示しました。本研究は,地球温暖化に植物がどのように対応しているかを分子レベルで初めて明らかにした点で注目されます。本研究成果は2012年12月27日、『PLOS ONE』誌に掲載されました。今年3月に岡山大学で開催された日本植物生理学会シンポジウムでも発表しました。
<用語解説>
光合成:植物の葉で行われる最も重要な反応で,太陽のエネルギーを使って水と二酸化炭素から酸素と糖を作る反応である。
光化学系:太陽のエネルギーを受け取り,複雑な光化学反応によって,光合成の炭酸固定に必要なエネルギーと還元力を作り出す。同時に水から酸素も作る。
葉緑体チラコイド膜:光合成の反応を行うのが,植物細胞の葉緑体で,その中にあるチラコイド膜は,光化学反応の場となっている。
脂質過酸化:チラコイド膜は脂質とタンパク質から出来ている。脂質は膜を作る大事な成分で,そこにタンパク質が埋まり込んでいる。この脂質分子は,強光があたると過酸化されることが分かった。過酸化は膜中に次々と広がり,膜の流動性を下げることにより,そこに埋まっている種々のタンパク質の機能を低下させる。
タンパク質の凝集:タンパク質がお互いに集まり,絡み合ってしまうこと。アルツハイマー病も脳のタンパク質の凝集が原因とされている。タンパク質が損傷を受けたり老化すると,ただちに分解されるのが普通であるが,分解出来ないと,このように凝集し,それが細胞死につながると言われている。私たちは,長年,光や熱ストレスに曝された植物の葉緑体で,このタンパク質凝集と葉緑体光化学系の機能不全の問題に取り組んできた。

参考文献などは,研究室ホームページをご覧下さい。
http://www.biol.okayama-u.ac.jp/yamamoto/home.htm

<資料>

図1. 植物の葉で行われる光合成の様子
根で吸収された水は,茎の道管を通り葉の細胞に運ばれる。
葉の裏側には多数の気孔があり,二酸化炭素を吸収する。光が当たると光エネルギーは葉の細胞中に存在する葉緑体のチラコイド膜のクロロフィルに吸収され,光化学反応が起きて糖と酸素が生じる。酸素は気孔から空気中に放出され,私たちの呼吸に使われる。糖はデンプンに変わり植物に蓄えられ,私たちの食糧源となる。また,成長した草や木は燃やされてエネルギー源となる。


図2. 植物細胞中の葉緑体と葉緑体中のチラコイド膜
植物細胞には葉緑体がある(左の図の小さな緑の粒)。この葉緑体中にはチラコイド膜があり,層状に積み重なっている(右上の電子顕微鏡写真と右下のモデル図)。チラコイド膜には光化学系 複合体が存在し,特に光化学系 IIとよばれる複合体は,水の分解と酸素の発生に重要な役割を果たしているが,これはチラコイド膜の積み重なった部分に沢山存在している。


図3. 強光ストレスを受けた時のチラコイド膜上の光化学系 II周辺の様子。特にタンパク質配置の変化
(A)は強光を受ける前.
(B)は強光を受けても,光の強さがまだそれほど強くなく,うまく対応出来る場合
(C) は極端な強光を受けた場合.でタンパク質の凝集が起きる。特に,チラコイド膜が重層してタンパク質が非常に混み合っている部分に強光が当たった場合には,タンパク質同士の凝集が起こりやすく,光合成が機能できなくなる。このような事態をさけるためには,(B)のように,タンパク質が自由に動ける空間が必要である。そのために植物は,(1)強光の下では,チラコイド膜の流動性を上げる,(2)チラコイド膜の重層を解消し,チラコイド膜上のタンパク質が動きやすい状態を作る,の2点を主に行っていると思われる。これが今回私たちが発見したことである。

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ先>
岡山大学自然科学研究科(理学部生物学科)教授
(氏名)山本 泰(やまもと やすし)
(電話番号)086-251-7860
(FAX番号)086-251-7876

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