国立大学法人 岡山大学

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植物の酸性土壌適応力を解明

2013年07月11日

 酸性土壌は、熱帯や亜熱帯地域に広く分布する作物生育における典型的な問題土壌です。酸性土壌での主な作物生育阻害因子はアルミニウム毒性ですが、本学資源植物科学研究所植物ストレス学グループの馬建鋒教授らは、その酸性土壌に適応する植物の仕組みを明らかにしました。本研究成果は、2013年6月16日、英国の植物のトップジャーナル『Plant Journal』電子版に掲載されました。
 酸性土壌ではアルミニウム毒性のために作物生産性が低く、この成果を応用すれば、今後酸性土壌での生産性の向上に貢献できます。
<業 績>
 シラゲガヤ(白毛茅)は、ヨーロッパで牧草として利用されている多年生のイネ科植物で、pHの低い酸性土壌でもよく生育できます。今回、岡山大学資源植物科学研究所植物ストレス学グループの馬鋒教授らは、シラゲガヤの酸性土壌適応機構を分子レベルにおいて世界で初めて解明しました。
 酸性土壌によく適応するシラゲガヤ系統を中性土壌から採取した系統と比較した結果、酸性土壌の低pH耐性には違いがなく、アルミニウム毒性に対する耐性が異なっていることを突き止めました(図1)。また、その耐性の違いは根から分泌されるリンゴ酸の量によることを明らかにしました。リンゴ酸の分泌に関与する遺伝子HlAMLT1を単離したところ、両系統間で遺伝子の配列には差が認められませんでしたが、発現量に2倍以上の差がありました。さらにその発現量の違いは、HlAMTL1遺伝子のプロモーター領域にあるシス因子の数に起因することを突き止めました。つまり、酸性土壌に良く適応する系統はプロモーター領域に転写因子であるARTと結合するシス因子の数が多くて、HlALMT1の発現を高め、その結果、リンゴ酸の分泌が多くなり、アルミニウムを無毒化する力が強くなります(図2)。

<見込まれる成果>
 酸性土壌は世界の耕地面積の3~4割を占める問題土壌であり、作物の生産性が低いです。しかし、一部の植物はこのような劣悪な環境でも生き残るために、酸性土壌に適応する戦略を獲得してきました。今回は転写因子が結合するシス因子の数を変化させて、アルミニウム耐性を強くする仕組みを解明しました。今後、この仕組みをアルミニウム耐性の弱い作物に導入すれば、酸性土壌でも生育できる作物の作出が期待できます。


A:中性土壌から採集したシラゲガヤ系統の根
B:酸性土壌に適応した系統の根
赤色はアルミニウム集積量を表す。酸性土壌に適応した系統は根から多くのリング酸を分泌することによって、根へのアルミニウムの集積を減らし、アルミニウムを無毒化することができる。
図1 アルミニウム耐性の異なるシラゲガヤ2系統


リンゴ酸の分泌に関与する遺伝子HlAMLT1 の発現量を高めるために、その遺伝子のプロモーター領域に転写因子が結合するシス因子の数を増やす
図2 酸性土壌を突破するシラゲガヤの戦略

<補 足>
 酸性土壌には作物の生育を阻害する因子が多く存在しますが、その主な原因は酸性条件下で溶け出してくるアルミニウムイオン毒性です。アルミニウムイオンは低濃度でも根の伸長を素早く阻害し、水分や養分の吸収能力を低下させてしまいます。しかし、一部の植物は根から有機酸を分泌して、アルミニウムと結合させることで無毒化する戦略を持っています。この研究の重要性は、リンゴ酸の分泌に関与する遺伝子の発現を増加させる、植物の酸性土壌適応戦略制御機構を明らかにしたことにあります。

<脚注説明>
プロモーター:遺伝子の蛋白質をコードする領域の上流に位置し、遺伝子発現を調節する領域
シス因子:プロモーター領域中で転写因子と結合する特定の短いDNA配列
転写因子:プロモーターのシス因子に結合し、遺伝子の発現を調節するタンパク質


本研究は、文部科学省新学術領域研究「植物環境突破力」の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Chen ZC, Yokosho K, Kashino M, Zhao FJ, Yamaji N and Ma JF: Adaptation to acidic soil is achieved by increased cis-acting element numbers regulating ALMT1 expression in Holcus lanatus. Plant Journal. 2013. (DOI: 10.1111/tpj.12266)

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所
植物ストレス学グループ 教授
(氏名)馬 建鋒
(電話番号)086-434-1209
(FAX番号)086-434-1209
(URL)http://www.rib.okayama-u.ac.jp/plant.stress/index.html

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