国立大学法人 岡山大学

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敗血症から血管内皮細胞を護る 敗血症治療薬候補「血漿タンパクHRG」の受容体を新規に同定

2020年07月03日

◆発表のポイント

  • 敗血症は治療の開始が遅れると呼吸不全、ショック、播種性血管内凝固症(DIC)などを発症しやすく、大変重篤な病態ですが、特異的な治療薬が現在ありません。
  • 敗血症の治療薬候補として研究を進めている血漿Histidine-rich glycoprotein(HRG)タンパクの受容体Clec1Aを新規に同定しました。
  • 敗血症の病態では血管内皮細胞障害が生じますが、その原因となるHMGB1の放出をHRGは強く抑え、過剰な炎症性サイトカイン類の産生を抑制することを明らかにしました。
  • HRGの血管内皮細胞保護作用は、敗血症治療法の開発につながる重要な発見です。

 敗血症は、感染症の増悪をきっかけとして生じる重篤な病態で、治療の開始が遅れると呼吸不全、ショック、播種性血管内凝固症(DIC)などを発症しやすく、早期の的確な診断と治療の開始が必要です。敗血症の治療薬開発の研究を続けている岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)薬理学の西堀正洋教授と細胞生物学の阪口政清教授らの研究グループは、この度治療薬候補として注目する血漿タンパクHRGの受容体Clec1Aを新規に同定しました。
 敗血症の病態が進行すると、血管の内壁として存在する血管内皮細胞に異常な活性化が起こりますが、その機序の詳細については解明されていませんでした。研究グループでは、血管内皮細胞がエンドトキシンや炎症性サイトカインのTNF-αで刺激されると、内皮細胞の核内に存在する炎症反応を増幅する作用の強いHMGB1というタンパクが細胞外へ放出されることと、この反応をHRGがClec1A刺激を介し非常に強く抑制することを明らかにしました。さらに、HMGB1が血管内皮細胞に働き種々の炎症性サイトカイン類が産生されるのを、HRGが効率よく抑制することを証明しました。以上の結果から、血漿タンパクHRGは、血管内皮細胞を保護する非常に大切な機能を担っていることがわかりました。このHRGが、敗血症の患者の血漿中では著明に低下していることは、これまでの研究で明らかにしています。本研究は2017(平成29)年度より3年間、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を得て、産学連携医療分野研究成果展開事業として実施されたもので、「敗血症治療のためのHRG血液製剤の創出」をテーマとした研究成果です。
 研究成果は、6月26日付けで、学際的国際誌「iScience」 電子版に掲載されました。

◆研究者からのひとこと

 今回の研究は、主に培養血管内皮細胞を使った敗血症の解析研究
ですが、現在世界的課題となっている新型コロナウイルス感染症の
病態理解にも活用が可能です。新型コロナウイルス感染症の解決に少しでも寄与できればと考えています。

西堀教授

■論文情報論 文 名:Histidine-rich glycoprotein inhibits high mobility group box 1-mediated pathways in vascular endothelial cells through CLEC-1A掲 載 紙:iScience著  者:Gao S, Wake H, Sakaguchi M, Wang D, Takahashi Y, Teshigawara K, Zhong H, Mori S, Liu K, Takahashi H, Nishibori M.D O I:10.1016/j.isci.2020.101180.


<詳しい研究内容について>
敗血症から血管内皮細胞を護る
敗血症治療薬候補「血漿タンパクHRG」の受容体を新規に同定



<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)
薬理学 教授 西堀 正洋
TEL:086-235-7140
FAX:086-235-7140


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