国立大学法人 岡山大学

LANGUAGE
ENGLISHCHINESE
MENU

交通安全に新観点 人間の視聴覚統合脳機能の空間特性を初めて明らかに

2013年07月17日

 本学大学院自然科学研究科の呉景龍教授の研究グループは、水平面の全方位における視聴覚相互作用について検討し、前後、左右の水平面4方向の聴覚刺激が視覚の判断に及ぼす影響の違いについて初めて明らかにしました。本研究成果は2013年6月17日、米科学雑誌『PLoS One』に掲載されました。
 近年、日本の自動車事故による死亡者数は減少傾向にあります。しかし急速な高齢化に伴い、高齢者の交通事故件数は増加傾向です。本研究では、被験者の主観的な影響がない状態で、水平面4方向からの聴覚刺激が前方からの視覚信号に及ぼす影響に違いがあることを発見しました。今後、交通安全の実用化に向けた展開などが期待されています。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科の呉景龍教授は、長年にわたって、認知科学実験、脳波(EEG/ERP)および機能的磁気共鳴画像(fMRI)などの手法を用いて、認知神経科学の観点から健康若年者、健康高齢者との認知能力と脳機能変化を研究しており、高齢者に適した運転支援装置のデザインを以前提案しています。今回、水平面全方向における視聴覚相互作用について、前方だけでなく後方からの聴覚刺激が視覚判断に大きく影響することを、健常若年者に対する脳波実験によって初めて発見しました。この発見は、今後の交通安全に向けた応用や、脳機能解明への展開が期待されます。
 視聴覚統合とは、視覚・聴覚情報の同時処理による正答率の向上、反応時間の短縮などの効果が表れる現象のことです。視聴覚の統合と相互作用について数多くの研究が行われていますが、脳内の視聴覚統合のメカニズムは完全には解明されていません。先行研究において視聴覚の促進効果は、情報の空間が一致するなどの構造的要因が重要とするものと、注意などの認知的要因が重要とするものが存在しています。しかしこのような視聴覚の相互作用に関する研究の多くは視覚刺激と聴覚刺激を水平面前方から呈示しているのみです。そこで、聴覚刺激の呈示位置を前後、左右の水平面4方向に広げ、事象関連電位(ERP)を用いて視聴覚の相互作用を検討し、今回、前後、左右の4方向の水平面全体の視聴覚統合の脳波実験を行いました。その結果、左右2方向の視聴覚統合効果が前後2方向の視聴覚統合より低く、前方の視聴覚統合が後方の視聴覚統合より早くなったことを明らかにし、水平面全体4方向からの視聴覚統合間にも有意な差がみられることを発見しました。

<見込まれる効果>
 近年、日本の自動車事故による死亡者数は減少傾向にあります。平成24年の死亡者数は4411人で、前年度と比較すると201人減少しています。この傾向は現在も続いており10年前と比べると半分程度に減少しています。事故の発生件数は、66万4907件で負傷者数は82万4539人となりましたが、いずれも8年連続で減少しました。しかし、日本の急速な高齢化に伴い、高齢者の交通事故件数は増加傾向にあります。平成24年の高齢者の死亡者数は2264人にのぼり、全体の51.3%と半数以上を占めました。その原因として、自動車の鳴音の警告による聴覚感受性が高齢者のほうが若年者より低いことにあると考えられています。本研究成果により、前後2方向の聴覚感受性は左右2方向より強いことが明らかとなり、最適な自動車の聴覚警告システムを確立することが期待されます。今後はより詳細で最適な聴覚警告の解明のために、単純な純音だけでなく幅広いタイプの聴覚刺激を用いて実験を行います。また、高齢者の中でも前期高齢者と後期高齢者に分けて比較を行うことで、より高齢者に適した自動車支援装置の設計につなげたいと考えています。さらに実用化のためには、視覚刺激の複雑化や実験環境の改良などによる、より現実に近い実験を行う必要があります。

<補 足>
 脳波(Electroencephalogram:EEG)は、ヒト・動物の脳から生じる電気活動を、頭皮上、蝶形骨底、鼓膜、脳表、脳深部などに置いた電極で記録したものです。医学、生理学、心理学、工学領域での研究方法として用いられます。
 視聴覚統合とは、人間に視覚情報(画像)と聴覚情報(音声)を同時に提示するとき、視覚・聴覚情報の同時処理による正答率の向上、反応時間の短縮などの効果が表れる現象のことです。

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科(工学部)教授
呉 景龍
(電話番号)086-251-8052
(FAX番号) 086-251-8266

年度