国立大学法人 岡山大学

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なぜ私たちの脳は学習や記憶をすることができるのか~海馬興奮性シナプスにおける長期増強/長期抑制発現機構の統一的理解~

2020年09月07日

◆発表のポイント

  • これまで、脳の学習や記憶の形成に関わる海馬興奮性シナプスの長期増強(LTP)と長期抑制(LTD)を統一的に説明する分子機構は未解明でした。
  • 海馬興奮性ニューロンの後シナプスに流入するカルシウムイオンの多寡に依存したAMPA型グルタミン酸受容体のエキソサイトーシスとエンドサイトーシスの競合に注目することで、LTPおよびLTDを統一的に理解できることを大規模数理モデルシミュレーションにより実証しました。

 岡山大学異分野基礎科学研究所の墨智成准教授および豊橋技術科学大学情報・知能工学系の原田耕治助教は、海馬興奮性ニューロンにおける長期増強(LTP)と長期抑制(LTD) の発現を統一的に説明する分子機構を提案し、大規模数理モデルシミュレーションを用いて実証しました。
 これまでLTPとLTDはそれぞれ個別に説明が試みられてきましたが、それらを統一的に説明する試みはなされていませんでした。本研究では、海馬興奮性ニューロンの後シナプスにおけるAMPA型グルタミン酸受容体(AMPAR)の「能動的」輸送過程を正確に再現した大規模数理モデルを提案し、それに基づくシミュレーション実験を行いました。その結果、NMDA型グルタミン酸受容体(注2)を介して後シナプスに流入するカルシウムイオン濃度の多寡に依存した「シナプトタグミン1/7によるエキソサイトーシス」および「PICK1によるエンドサイトーシス」の競合が、シナプス後膜上のAMPAR数を増減させ、その結果としてLTPおよびLTDが誘導されることを明らかにしました。本研究成果は、9月7日英国時間午前10時(日本時間午後6時)、英国の科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
 本研究成果は、LTPおよびLTDへの関与が特定されているタンパク質(並びに複合体)の、AMPAR輸送システムにおける役割や、1分子計測によって観測されているさまざまな側面を、包括的に理解・説明するための分子基盤となることが期待されます。

◆研究者からのひとこと

学習、記憶、思考といった脳の高次機能の研究に関与したい、という漠然とした願望から始めた研究です。神経科学は全くの素人だったので、基礎知識の勉強や膨大な文献調査に時間がかかり、どうなるか心配でしたが、元同僚の原田耕治先生にご協力賜りながら、本研究成果を無事発表することができました。今後は大脳皮質回路の研究へと発展させていきたいです。
墨准教授(左)、原田助教

■論文情報論 文 名: Mechanism underlying hippocampal long-term potentiation and depression based on competition between endocytosis and exocytosis of AMPA receptors掲 載 紙:Scientific Reports著  者:Tomonari Sumi, Kouji HaradaD O I:10.1038/s41598-020-71528-3U R L:https://www.nature.com/articles/s41598-020-71528-3

<詳しい研究内容について>
なぜ私たちの脳は学習や記憶をすることができるのか~海馬興奮性シナプスにおける長期増強/長期抑制発現機構の統一的理解~

<お問い合わせ>
岡山大学異分野基礎科学研究所
准教授 墨 智成(すみ ともなり)
(電話番号) 086-251-7837

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