国立大学法人 岡山大学

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がんを標的する抗体医薬の耐性因子を解明

2013年07月25日

 岡山大学大学院自然科学研究科ナノバイオシステム分子設計学分野の妹尾昌治教授、笠井智成助教らの研究グループは、抗体医薬に対する耐性に関わるタンパク質と耐性機構を世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、2013年6月21日に米国の科学雑誌『Journal of Cancer』に掲載されました。
 乳がんの特効薬として一躍脚光を浴びた「トラスツズマブ」は、がんの細胞表面のHER2(またはErbB2)と呼ばれるタンパク質に対する分子標的薬で、HER2が過剰ながん細胞の乳がん患者に使われます。しかし、この薬に耐性で効果が無い患者も多く、原因解明が急がれています。
 今回の成果を応用することで、抗体医薬品によるがん治療効果を予測して奏効率を上げることや分子標的薬の開発に大きく貢献することが期待できます。
<業 績>
 岡山大学大学院自然科学研究科ナノバイオシステム分子設計学分野の妹尾昌治教授、笠井智成助教らのグループは、ヒト乳がん由来SKBR-3細胞にカベオリン(Cav-1)の遺伝子を導入することにより、抗体医薬に対する耐性機構の一つを初めて明らかにしました。
 抗体医薬品である「トラスツズマブ」は、がん細胞の表面に発現しているErbB2を標的する分子標的薬です。がん細胞の表面にトラスツズマブが結合すると、マクロファージやNK細胞といった免疫細胞によってがん細胞が殺されます。これは「抗体に依存した細胞傷害効果(ADCC)」と呼ばれ、トラスツズマブが効果を示す仕組みです。しかし、ErbB2高発現のがん細胞であってもトラスツズマブが治療効果を発揮できない患者が多いことが問題でした。
 妹尾教授らの研究グループは、かねてより細胞の種類によりErbB2が細胞内に取り込まれたり取り込まれなかったりすることを見出しており、これにはCav-1というタンパク質の有無が関与することを示唆する実験結果を得ていました。
 今回、Cav-1遺伝子により形質導入したErbB2高発現細胞では、抗体が結合したErbB2はCav-1の働きに依存してがん細胞内に取り込まれるため、血液中の免疫細胞は抗体を認識できず、ADCCが起こらないため、抗体薬に対して耐性となる機構が明らかとなりました。
 また、ErbB2に特異的に結合する人工ペプチド(EC1)にヒトIgGのFcドメインを融合したキメラ型の抗体タンパク質EC-Fcを用いた解析によっても、この細胞はトラスツズマブと同様に耐性を示すことが明らかとなりました。一方、Cav-1を発現していないErbB2高発現の細胞では細胞内への移行が認められませんでした。


A:トラスツズマブとCav-1タンパク質の局在
B:EC1ペプチドとErbB2の局在
Cav-1遺伝子を導入した細胞(各上段)ではトラスツズマブ、EC1ペプチドがそれぞれ細胞内に局在しているが、SKBR-3細胞(各下段)では細胞表面に結合している。免疫細胞は細胞表面の抗体を認識して殺傷する。


<見込まれる成果>
 Cav-1の発現量がトラスツズマブによる治療方針の大きな判断材料となることが期待でき、また、治療予後の予測にも役立つと考えられます。
 今回の発見に関連して、妹尾教授らはErbB2を高発現しているがん細胞を標的としてがん細胞を殺傷する効果がCav-1の発現量に依存しない新しい分子標的薬の開発にもすでに成功しています。このため、抗体薬による治療で効果が認められないがんに対する治療薬の開発が大きく進展することが期待できます。

<補 足>
 抗体は標的に対する特異性が高く、副作用が少ないのでがんや難病の治療薬として開発が進められています。また、抗体を利用した標的医薬品の研究も進んでいます。本研究の知見は、これらの治療薬を選択する一つの判断材料として利用できると考えられます。
 抗体の細胞内への移行の有無によって、標的薬の剤形・構成成分をいかに組み合わせるかは重要ですが、薬剤スクリーニングへの応用も期待できます。

 本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科研費24510151, 23650598の助成を受け実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます

発表論文:Sekhar SC, Kasai T, Satoh A, Shigehiro T, Mizutani A, Murakami H, El-Aarag BY, Salomon DS, Massaguer A, de Llorens R, Seno M. Identification of caveolin-1 as a potential causative factor in the generation of trastuzumab resistance in breast cancer cells. J Cancer. 2013. (doi: 10.7150/jca.6470.)

報道発表資料はこちらをご覧ください

添付資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科
ナノバイオシステム分子設計学分野 教授
(氏名)妹尾 昌治
(電話番号)086-251-8216
(FAX番号)086-251-8216
(URL)http://www.cyber.biotech.okayama-u.ac.jp/senolab/

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