◆発表のポイント
- 投薬支援業務でのAIの活用はあまり進んでいませんが、原因として本邦ではビッグデータが集めにくく、実臨床データにはノイズが多いため、機械学習が困難であることが考えられます。
- 臨床データの適切な選択と補完により効率的な学習を可能とした、新たなAI投薬支援システムを開発し、医師の思考に基づいた投薬判断を再現する事が可能になりました。
- 本システムはさまざまな投薬に応用が可能であり、実用化が期待されます。
近年、医療におけるAIの活用が進んでいますが、投薬支援での活用はあまり進んでいません。その理由としてわが国ではビッグデータが集めにくく、また実臨床データにはノイズが多いため、機械学習が困難であるという問題点がありました。今回、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医学系)病理学(免疫病理)分野の大原利章助教は、東北大学材料科学高等研究所の杉谷宜紀助教、水藤寛教授とともに、臨床データの適切な選択と補完により効率的な学習を可能とし、専門医の思考に基づいた投薬の判断を再現する事が可能になるシステムを開発しました。
このシステムを腎性貧血に対する赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)と鉄剤投与の問題に応用し、重井医学研究所附属病院(岡山市南区)の池田弘部長(当時)、櫻間教文部長、岡山大学病院血液浄化療法部の木野村賢講師、小林内科(岡山市北区)の原口総一郎院長と共同でAI投薬支援システム(AISACS)を開発しました。ESA製剤、鉄剤共に90%以上の割合で臨床的に正しい投薬判断を出力可能である事を明らかにしました。
本研究成果の詳細については2月22日、豪州の医科学誌である「International Journal of Medical Sciences」に掲載されました。
今後はAI投薬支援システムの基本技術として、さまざまな投薬に応用される事が期待されます。
◆研究者からのひとこと
医療におけるAI活用は、大量の診断画像や蓄積された医療データを扱う事が多いですが、今回の研究開発は非画像、非ビッグデータという少し珍しい形のAI研究です。開発したAI投薬支援システム「AISACS」は名医や経験豊富な医師の知見を広く共有する事で、わが国の医療レベルの底上げや医師や薬剤師などの医療従事者の教育にも応用する事が期待されます。今後、AISACSの開発拡大のために企業との共同研究を進めて行きたいと考えていますので、ぜひご興味のある皆さんと開発を進めていければと思います。 | 大原助教 |
■論文情報
論 文 名:Artificial intelligence supported anemia control system (AISACS) to prevent anemia in maintenance hemodialysis patients
掲 載 紙:International Journal of Medical Sciences
著 者:Toshiaki Ohara, Hiroshi Ikeda, Yoshiki Sugitani, Hiroshi Suito, Viet Quang Huy Huynh, Masaru Kinomura, Soichiro Haraguchi and Kazufumi Sakurama
D O I:10.7150/ijms.53298
U R L:https://www.medsci.org/v18p1831.htm
<詳しい研究内容について>
専門医の思考を学習させたAI投薬支援システムを開発
<お問い合わせ>
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科病理学(免疫病理)
助教 大原 利章
(電話番号) 086-235-7143
(FAX) 086-235-7648
(HP)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科免疫病理学