国立大学法人 岡山大学

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自身の活性酸素を消す力ががん免疫力を高めることを発見!〜免疫T細胞に本来備わる活性酸素消去力をメトホルミンが活性化〜

2021年09月29日

◆発表のポイント

  • 免疫T細胞のもつ自身の活性酸素を消す力が、抗がん活性を高めることを発見しました。
  • 活性酸素を消す力は免疫T細胞の増殖を促すと同時にがん細胞の殺傷力を高めます。
  • 活性酸素を消す力をもたらす化合物として糖尿病治療薬メトホルミンがありました。

 岡山大学学術研究院医歯薬学域(免疫学)の鵜殿平一郎教授と西田充香子助教を中心とする、理化学研究所、千葉大学、慶應義塾大学、順天堂大学、筑波大学、愛知県がんセンター、東京大学病院のメンバーからなる研究チームは、糖尿病治療薬メトホルミンが免疫T細胞のミトコンドリアに微量活性酸素を発生させることで逆に自身の活性酸素を消去する力を高め、抗がん活性に繋げることが可能であることを明らかにしました。
 この研究成果は8月2日、英国の雑誌「Journal for Immunotherapy of Cancer」のResearch Articleとして受理され、9月16日、電子版に掲載されました。固形癌の中に浸潤した免疫T細胞は眠った状態にありますが、メトホルミンでミトコンドリアに刺激を与えると目を覚まして増殖を開始し、がん細胞を殺傷する力が高まります。
 本研究は、固形癌中の休眠状態にある免疫T細胞の活性化を促す方法に関して重要な知見を与え、現行の免疫治療薬である免疫チェックポイント阻害薬との併用により、がん免疫療法をより効果的に改善できることが期待されます。

◆研究者からのひとこと

 錠剤を飲むだけで簡単に癌が治らないかという夢を抱いたのが今から10年前、それを可能にするかもしれない化合物として2型糖尿病治療薬メトホルミンを発見して誌上に発表したのが2015年。しかし、そのメカニズムがわからない。これが解明されなければサイエンスではない、ただのお呪い薬。世界中の研究者はミリモル(mM)オーダーのメトホルミン濃度で実験を行い、実に様々な言説が流布中です。この濃度では癌細胞の増殖は止まっても免疫細胞は全て死滅します。私たちはあくまで患者血中濃度と同じ数マイクロモルの条件で気の遠くなるような実験を繰り返しました。
 その努力が今回の発見に繋がりました。今回の発見では、薬の濃度効果の妙、活性酸素を消す力(抗酸化力)と免疫T細胞の関係性、インターフェロン・ガンマによる癌細胞の代謝制御など、思いもかけず新知見満載となりました。

鵜殿教授

■論文情報
論 文 名:Mitochondrial reactive oxygen species trigger metformin-dependent antitumor immunity via activation of Nrf2/mTORC1/p62 axis in CD8T lymphocytes
掲 載 紙:Journal for Immunotherapy of Cancer
著  者:Mikako Nishida, Nahoko Yamashita, Taisaku Ogawa, Keita Koseki, Eiji Warabi, Tomoyuki Ohe, Masaaki Komatsu, Hirokazu Matsushita, Kazuhiro Kakimi, Eiryo Kawakami, Katsuyuki Shiroguchi, Heiichiro Udono
D O I:10.1136/jitc-2021-002954
U R L:https://jitc.bmj.com/content/jitc/9/9/e002954.full.pdf


<詳しい研究内容について>
自身の活性酸素を消す力ががん免疫力を高めることを発見!〜免疫T細胞に本来備わる活性酸素消去力をメトホルミンが活性化〜


<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院医歯薬学域 免疫学分野
教授 鵜殿 平一郎
(電話番号)086-235-7192
(FAX)086-235-7193


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