国立大学法人 岡山大学

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性腺刺激ホルモン放出ホルモンGnRH分泌調節の新機構を解明

2013年08月22日

 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の大塚文男教授(総合内科学分野)、寺坂友博大学院生(腎・免疫・内分泌代謝内科学分野)の内分泌研究グループは、生殖機能を司るキスペプチンという物質が、脳の視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を調節する新しい仕組みについて、マウスのモデル細胞を用いて突き止めました。
 本研究成果は2013年7月20日、内分泌学の国際誌『Molecular and Cellular Endocrinology』に掲載されました。
 キスペプチンは脳内の視床下部の細胞から放出されるタンパク質で、近年の研究から生殖機能や思春期の発来に重要であることが知られています。卵巣で産生されたエストロゲンは、脳の視床下部へ情報を伝えて、GnRHの分泌を調節しています。キスペプチンは、このエストロゲンによるフィードバックという仕組みのなかで中心的な役割を果たしています。
 今回の研究では、キスペプチンによるGnRH分泌の調節において、BMP-4という別のタンパク質がキスペプチンの作用を制御することを明らかにしました。未だ十分に分かっていない思春期発来や排卵・閉経の機序の解明において、興味深い成果であると考えられます。
<業 績>
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の大塚文男教授らの内分泌研究グループは、米国カリフォルニア大学サンディエゴUCSDのLawson M.A.博士らとの共同研究で、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌調節において、BMP-4がエストロゲンとキスペプチンによるGnRH分泌へのフィードバックの仕組みを抑制することを、視床下部の神経細胞(マウスGT1-7細胞)を用いて世界で初めて明らかにしました。
 視床下部の神経細胞から分泌されるGnRHは、10個のアミノ酸からなるペプチドで、律動的に分泌されます。GnRHは脳下垂体に働きかけて卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌を刺激し、FSHの作用によって卵巣からは女性ホルモンであるエストロゲンが産生されます。視床下部からのGnRHの分泌リズムは、思春期の発来や性成熟を起こし、正常な性周期を形成するのに非常に重要です。
 一方、卵巣から分泌されたエストロゲンは、視床下部にGnRHを分泌調節する指令をフィードバックしていますが、このエストロゲンからGnRH分泌への指令伝達の役割は、キスペプチンニューロン細胞により担われています(下図参照)。キスペプチンは、2001年にヒトの胎盤から発見された生理活性ペプチドであり、当初は腫瘍の転移を抑制する物質として考えられていましたが、2003年にキスペプチンの受容体であるGPR54の遺伝子に異常があると性成熟が起こらないことが分かり、キスペプチンの生殖機能における重要性が明らかとなってきました。
 今回の研究では、卵巣のエストロゲンから視床下部のGnRH分泌へのフィードバックの仕組みにおいて、キスペプチンがこの調節を強化すること、このキスペプチンの作用に対してBMP-4というタンパク質が抑制的に作用し、さらにキスペプチンもBMP-4の働きを抑制するという、双方向性の制御の仕組みがあることを突き止めました。



<見込まれる成果>
 視床下部のGnRHと卵巣のエストロゲン分泌の間を仲介するフィードバックの仕組みは、未だ十分に知られていません。また、思春期の発来や性周期の異常をきたす間脳や視床下部の病気のうち、病態の多くは不明です。キスペプチンと、それを取り巻く調節因子BMP-4に着目することで、今後、生殖機能異常における新しい診断・治療の標的分子となる可能性が期待されます。

<補 足>
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費を受けて実施しました。

発表論文はこちらからご確認いただけます。


発表論文: Terasaka T, Otsuka F, Tsukamoto N, Nakamura E, Inagaki K, Toma K, Ogura-Ochi K, Glidewell-Kenney C, Lawson MA, Makino H: Mutual interaction of kisspeptin, estrogen and bone morphogenetic protein-4 activity in GnRH regulation by GT1-7 cells. Mol Cell Endocrinol. 2013 Jul 20. pii: S0303-7207(13)00303-1. (doi: 10.1016/j.mce.2013.07.009.)

報道発表資料はこちらをご覧ください

<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
総合内科学 教授
(氏名)大塚 文男
(電話番号)086-235-7342
(FAX番号)086-235-7345
(URL)http://okayama-u-sougounaika.jp/

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