国立大学法人 岡山大学

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炎症性腸疾患治療薬候補NEt-3IBの環境にやさしい大量合成法を開発 〜原薬合成における廃液量の削減によるSDGs貢献を視野に〜

2022年02月01日

◆発表のポイント

  • 炎症性腸疾患(IBD)は、慢性的な炎症により下痢や血便、腹痛などを伴う疾患です。
  • IBD治療薬として、低価格で経口投与が可能である新たな低分子医薬はSDGsの「すべての人に健康と福祉を」の観点からも希求されています。
  • 本研究では、岡山大学発の低分子型IBD治療薬候補NEt-3IBの大量かつ安定供給が可能な大量合成法の開発に成功し、本成果によりNEt-3IBの医薬開発が促進されると期待されます。
  • 既存法に比べて、多段階の原薬合成における環境への負荷の指標であるE-factorを35倍以上改善した、環境にやさしいNEt-3IBの大量合成法の開発に成功しました。
  • 本アプローチは、環境負荷の小さい原薬の大量合成法開発への汎用化も期待できます。

  岡山大学大学院医歯薬学総合研究科博士後期課程の大学院生である高村祐太氏、同学術研究院医歯薬学域の加来田博貴准教授らは、アイバイオズ株式会社らと共同で開発中の炎症性腸疾患治療薬候補化合物の環境にやさしい大量合成法の開発に成功しました。
炎症性腸疾患(IBD)は、慢性的な下痢、血便、腹痛などの症状が見られます。近年、その治療薬として抗体医薬品が上市されていますが、医療費の高騰や抗体医薬品に対する抗体に発現による重篤化が問題とされています。貧富による医療格差や医療現場の逼迫を考慮すると、低価格で経口投与が可能な低分子型の新薬が希求されています。我々がこれまでに見出しているレチノイドX受容体(RXR、注1)の作動性物質NEt-3IBは、炎症性腸疾患モデルにおいて、抗炎症効果に加えて、IBDの治療エンドポイントとされている粘膜治癒をも誘導することが確認されており、新たな低分子型の炎症性腸疾患治療薬候補として注目されています。このような背景から現在、NEt-3IBの炎症性腸疾患に対する治療薬開発を、本学と慶應義塾大学、アイバイオズ株式会社と共同で進めています。
本研究では、炎症性腸疾患治療薬候補として注目されているNEt-3IBについて、有機合成で問題とされる廃液量の削減によるSDGs貢献も期待される大量合成法を開発しました。既存の合成法を基に、使用する有機溶媒を回収と再利用が可能な脂溶性エーテル(注2)へと変換することで、2種類の有機溶媒の使用で、かつ廃液量の大幅な削減が可能となり、環境に配慮した合成法の指標とされるE-factor(注3)を35倍以上改善しました。
本研究成果は2月1日、日本薬学会誌「 Chemical and Pharmaceutical Bulletin」に、Highlighted paper selected by Editor-in-Chiefに選定された上で公開されました。

◆研究者からのひとこと

 本研究の成果が、岡山大学発の医薬開発の一助に加えて、本学が推進するSDGsに貢献できれば幸いです。
大学院生の立場でありながら医薬開発の一端を担えたことは、将来医薬開発研究の道に進む糧となりました。この機会を与えていただいた加来田准教授、関係者のみなさまに感謝申し上げます。

高村 祐太氏

■論文情報
論 文 名:Development of Scaled-Up Synthetic Method for Retinoid X Receptor Agonist NEt-3IB Contributing to Sustainable Development Goals

掲 載 紙: Chemical and Pharmaceutical Bulletin Vol. 70 No. 2 pp.146-154.
著  者:Yuta Takamura, Ken-ichi Morishita, Shota Kikuzawa, Masaki Watanabe, Hiroki Kakuta
D O I: https://doi.org/10.1248/cpb.c21-00911
U R L: https://www.jstage.jst.go.jp/browse/cpb/-char/ja

<詳しい研究内容について>
炎症性腸疾患治療薬候補NEt-3IBの環境にやさしい大量合成法を開発
〜原薬合成における廃液量の削減によるSDGs貢献を視野に〜



<お問い合わせ>
学術研究院 医歯薬学域 准教授 加来田 博貴
(電話番号)086-251-7963 (FAX)086-251-7926


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